第10話 やってみると結構面倒臭い
「、くっそ、あの野郎っ、右足もっ!」
ひと思いにさっさと殺さずに身体の部位を左右交互に食べていくのは何かの嫌がらせか?
ゴブ子の強さなら私なんて一瞬で刈り取れるだろうに、性格の悪い奴だこと。
活け造りされる魚の気持ちってこんな感じなのかね。
まな板の上の鯉状態だし。
「ぎゃう☆」
「っぐぇ」
そんなしょうもないことを考えていると、突如残った右半分の頭部をガシッと掴まれ、横たわっている鶏の身体めがけて軽い感じでポイッと投げ捨てられる。
グチ゛ャッと気持ち悪い音とともに血塗れの鶏の横っ腹に頭から突っ込み羽毛が派手に散る。
「……っ、私とゴブ子の仲なのに、扱いが雑じゃァないか」
「ぎゃっ、ぎゃっ♪」
ゴブ子が音もなく飛び上がり鶏の身体の上にヤンキー座りで着地、私の顔を上から見下ろすようにして覗き込む。
近い近い、顔が近い。
鼻息がかかってこしょばいんだが……いや、そんなのも感じ取れるほど骨の感度が良いことにびっくりなんだが。
この骨神経でも通ってるの?
まじで謎。
狭くなった視界いっぱいに逆さまのゴブ子の顔が映るが、ゴブリンの顔のドアップは中々にキツイものがある。
改めてまじまじとゴブ子の顔を見てみるが、顔がでかい。
身体が小さいのに顔がでかいので、なんかこう幼児向け子供番組に出てきそうな着ぐるみ感が凄い。
初見から何か既視感があるなと思っていたがそれか。
お目々はつぶらで可愛らしく、黒目しかない死んだ魚の目みたい。
お鼻は左右非対称な歪な潰れた豚の鼻みたいのがべちゃっとくっついていて、よく見るとナメクジの触角のような短い産毛のようなものがさわさわしている。
お耳はコウモリの皮膜のような耳がついておりしっとりと濡れている。
お口は耳まで裂けており例の斬れ味が鋭いギザギザの歯が並んでいる。あと息が臭い。
あの番組にこんなん出てきたらおにいさんもおねえさんも子供泣くぞ。
「お前が……何をしたいのかが分からないんだが。さっきまでそんな流れじゃなかったじゃない」
「ぎゃ? ……ぎゃぎゃぎゃ☆」
「うん、わからん」
「……ぎゃぁ」
ちょっと待ってろ、と顔と手でジェスチャーしたゴブ子は、ストン、と私の投げ出されている足の間に音も無く降り立つ。
と、雑草を抜くような軽い感じで、私の残った左足を掴み、ゴリッと引っこ抜いた。
「おま、!!、」
「ぎゃ♪」
手加減したのだろうが、掴んだ箇所に若干ヒビが入っている。
足の付け根辺りから持っていかれたがそれを気にする暇もなく、続いてまだ無事な左腕と更にダメ押しに手首から先がない残った右腕も持っていかれた。
「〜〜〜〜っ!」
「ぎゃう〜ん♡」
さっきとは違い、目の前でゆっくりとこちらの反応を楽しむように行われた為、自分の身体が壊されるという感覚をじっくりと体感することができた。
これは骨の身体で良かったかもしれない。
痛みが無く精神的にも動揺が少なくなったであろう骨の身体になった今でも心にかなり来るものがある。
下手に肉のある生身の身体でやられていたら発狂ものだ。
引っこ抜いた私の骨達を大事そうに鶏に立てかけてから、ボテボテとぬかるんだ地面に足を取られながら洞窟に戻っていくゴブ子。
「……今度はなんだ? 理由も分からず襲われ続けるのって中々精神的にキツイんだけど」
少しして、ゴブ子が洞窟から戻って来るが手に何か持っているのが見える。
なんだ今度は道具を使った拷問でもするのか?
あいつはドSの変態かなんかか?
「ぎゃーん!」
じゃーん、と目の前に出されたそれは、ゴブ子と会話する為に私が作った、五十音が書かれた板切れである。
「……まさか、今から……またやるの? 指差しで会話を? この状況で? お前、情緒どうなってんの?」
『そうですよー、何にも知らないみたいだから冥途の土産に色々教えてあげるんです!』
「……私、この状態で? 指差されたのを私が読み上げてそれに私が返事して……え、くそめんどいんだが」
『やるんですよ! 次は説明回です!』
「……えー……」
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