第4話 ゴブリンのゴブ子さん

 浮かれていて、考え込んでいて気付かなかった。

 ふと顔上げたら視界に入ったのは、じっとこちらを見つめて動かない異世界ではお馴染みのアイツ。


「……ゴブリン」


 びくっ!


「……ん?」


 なんだ?

 今、ゴブリンがビクッと震えたような。


「えーと……ゴブリンですか?」


 ガサガサっ!!

 ダダダダーーーーっ!!

 ガシッ!!


「ぎゃぎゃぎゃぎゃー!!」

「え、なになになに怖い怖い怖いっ!」


 ゴブリンですか、と優しく質問してみたら、近くで見ると意外とつぶらな可愛い目から大粒の涙を流して走り寄ってきて抱きつかれた件。


「ぎゃぁいぎゃいぎゃいぃぃぃっ!!」

「……えー……なんなのー……」



 ☆★☆★☆★☆★



「なるほどねー、気が付いたらゴブリンにねー」

「ぎゃうぎゃう」


 私は今、ゴブリンさんのお家に招かれてクソまずいお茶を頂きながらゴブリンさんと情報交換という名のおしゃべりをしている。


 ゴブリンさん、長いからゴブ子でいいや。


 最初、泣きながら抱きついてきたと思ったら突然ダンスし始めるゴブリンに軽く恐怖を感じ、秒でその場から逃げようとした。


 しかしゴブ子、意外に素早い。

 一瞬で回り込まれ再び号泣しながら抱きつかれてしまったのだ。


 何をしても離れないゴブ子に観念し、なんとかゴブ子をなだめ励まし泣き止ませ、どこか落ち着いたところで話をしたいな、なんてナンパのようなセリフを放ったところ、まさかの自宅へご招待。


 そこから歩いて30分くらいの所にある手掘りの洞窟っぽい狭い穴へと案内された次第である。


 横並びになりながらゴブ子が淹れてくれた謎の茶色い水を飲みながら話を聞いているのだが、あの謎のダンスはぎゃうぎゃう言いながら身振り手振り頑張って何かを伝えようと必死だったらしい。


 ゴブ子は上手く言葉を話せないらしい。

 ゴブリンも人型とはいえ人間と喉の作りが違うのだから当たり前か。


 なら筆談はどうかと提案してみるも、地面に書かれた文字はおよそ文字とは言えないミミズがのたくったような文字だった。


 本人は日本語を書いている認識のようだが、いくらやっても出力されるのはミミズ文字。

私には読めなかったがゴブ子にはちゃんと日本語として読めるようでなんとも不思議だ。


 試しに私が日本語で文字を書いてみた所、出力されたのは普通に日本語だったしゴブ子もそれを日本語と認識していた。

私の話す言葉と書いた文字は、ゴブ子も普通に日本語として理解出来るみたいでこれもまた不思議だ。




 仕方がないのでそこからはジェスチャーゲームである。

 短い手足を振り回して何とかこちらに伝えようとしてくれてはいたけど……全くわからない。

 諦めて帰ろうとするとめっちゃ泣くし。


 いよいよめんどくせぇな、と思い始め隙を見て逃げ出そうとしていたところ、五十音図を書いてそれを指差しすればいいんじゃね、と気づいてからはゴブ子にとって楽しいおしゃべりの場に変わったのてある。


 さて、ゴブ子が言うには、ゴブ子は私と同じように元々日本に暮らしていた日本人で、ある日目を覚ましたら森の中、更に身体がゴブリンになっていたそうだ。


 こうなった原因も心当たりがないようで、自分の事を思い出そうとすると頭に靄がかかったみたいになり何も思い出せないらしい。


 なので私と同じように自分の名前もわからないし、年齢も思い出せる記憶から大体このくらいかなと推測する感じだ。

 性別も何となく女の子っぽかったので私は心の中で勝手にゴブ子と呼んでいる。


 何も分からないが、とりあえずゴブリンになったものの腹は減る。

 生きる為には何か食わねばと狩りの真似事をしてみるも、短い手足と小さい身体に慣れず失敗続き。


 狩りが駄目なら何か食べれそうなものを採取するべと森を彷徨ってみたものの、視界に入るのは謎の進化を遂げた植物達である。


 果物っぽいものやきのみっぽいものもあるにはあるが……手に取ると目が開いたり口が裂けたりする果物を食べるのはちょっと、いやかなり気が引ける。


 試しに一つ、まだ常識の範囲内にある果物(木からもぐと表面に口がにゅっと出てきてずっとブツブツ何かを呟いている)を食べてみたらしいが見事に腹を壊して死にかけたらしい。


 そんな感じで食べ物を余り収穫出来ずに、口に入れても大丈夫な常識の範囲内にある草やらきのみやらとギリギリ飲めそうなくらい汚い水源もなんとか見つけ出し、ひもじい思いをしながら一ヶ月程この森で生き延びてきたゴブ子さん。


 今日はきのみのストックが無くなりそうだったのできのみの収穫がてらなんかないかなと森を彷徨っていたところ、たまたま森にぼけっと突っ立っている私と遭遇したらしい。


 可愛いパジャマを着た骨が森に佇んでいたので最初はびっくりしたそうだが、日本語で話しかけられたことで今まで心の奥底に押し込んでいた色々な想いが弾け飛んだらしい。

 気付いたら泣きながら骨を抱きしめていたとのこと。


 話してみた感じまだ年齢がかなり若い印象を受けるので聞いてみたところ、16か17歳のたぶんJK、という答えが返ってきた。


 高校生がいきなり1人こんな森に放り出されて1ヶ月もサバイバルしてたなんて……と同情しかけたが、考えてみると自分も同じ状況になりそうだし、見回してみると洞窟内には割りと物が充実しており、意外と楽しく生活しているのが見て取れる。


 うん、1ヶ月も生き抜けたのだ、これからも1人で頑張って生きていってほしいものだ。

 骨的直感でなんかめんどくさそうだしこの子。




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