第8話 トラブルと決意
ミレイさんに今後のことを相談するって決めたけど、ただ宿で待っているだけだとソワソワして落ち着かなかった。
だから、ミレイさんが帰ってきたら真っ先に立ち寄るだろう、冒険者ギルドの出張所で待たせて貰うことにしたんだけど……私みたいな子供は珍しいのか、「ミレイさんが帰ってくるまでここにいたいです」って言ったら、強面の冒険者達がみんな世話を焼いてくれる。
やれ、「酒のツマミに買ったんだけどいるか?」と串焼きをくれたり、「何か困ったことがあったら言えよ」なんて優しく声をかけてくれたり……正直、意外だ。
ポーションを買い叩かれちゃったのはちょっぴり悲しかったけど、屋台のおじさんといい、ここの人達といい、良い人もたくさんいて嬉しいな。
──そんな風に、のんびりと過ごしていたら、ミレイさんが帰ってきた。
仲間の男の人に、担ぎ込まれるようにして。
「ミレイさん!! 大丈夫ですか!?」
血の気が引くのを感じながら、縋り付くように傍へ駆け寄った。
そんな私に答えたのは、ミレイさんを担いだ男の人だった。
「大丈夫だ、一命は取り留めてる。けどポーションで応急処置しただけだし、一度医者に診せなきゃならねえから、お前はここで待ってな」
急に現れた私を訝しみながらも、ミレイさんの関係者だってことは察してくれたのか、優しくそう言って……足早に出張所の奥へ向かう。
ついて行きたかったけど、それは周りの冒険者達に止められちゃった。
「マナミちゃん、お前さんが言っても邪魔にしかならねえ、今はあの姉ちゃんを信じて待ってやりな」
「……うん」
手持ちのポーションは全部売っちゃったし、薬草もないんじゃ新しく作ることだって出来ない。
無力感でいっぱいになっていると、そんな私を慰めるようにプルルが体を擦り付けて来た。
「……うん、大丈夫だよね、ミレイさんなら」
不安な気持ちを押し殺すようにそう呟いて、プルルの体を抱き締める。
それからしばらく待っていると、奥から人が出てきて……その中には、ミレイさんの姿もあった。
「ミレイさん!」
「マナミ……心配かけちゃってごめんね」
迷わず駆け寄ると、ミレイさんは私を抱き締めてくれる。
顔色は良いとは言えないけど、死人というほど最悪でもない。ちょっと安心した。
「それから、ありがとう。助かったわ、マナミ」
「? なんで私にお礼なんて……」
「私がこうしていられるのは、マナミがくれたポーションのお陰だからね」
話を聞いてみると……。
ミレイさん達は、キングゴブリン討伐のために森に入って、戦闘になったんだけど……そこへ、乱入者が現れたんだって。
「まさか、ライガルガなんて化け物が現れるとは思わなかったわ。私達を狙った訳じゃなくて、キングゴブリンを仕留めるための攻撃に巻き込まれたって感じだったけど……本気で襲われたら、どうしようもなかったわね」
「…………」
「マナミ?」
「あ、ううん、なんでもない」
黙り込んだ私の顔をミレイさんが覗き込んで来たけど、慌てて手を振って誤魔化した。
……雷獅子ライガルガ。そのモンスターのことは、よく知ってる。
ゲームの世界で、私がテイムしていた従魔の一体だったから。
「もしかして、あの子が……」
確証はない。けど、本来のライガルガの設定だと、目に映るもの全てを焼き殺すまで止まらない暴虐の化身だったはず。
そんなに近くにミレイさん達がいたのに、攻撃しようとしなかったのは、もしかしたら……。
「ねえミレイさん、そのライガルガってどんな見た目だった? 何か変なものを体に付けてたりとか……」
「変なもの? ごめんなさい、私はすぐに気絶しちゃったから……そこまでよく見てないわ」
だよね……と肩を落とす。
けれど、そんな私達に冒険者の男の人が「そういえば……」と声をかけてきた。
「あのライガルガの首に、なんかアクセサリーみたいなのが付いてた気がする……」
「それって、星みたいな形のネックレスじゃなかったですか?」
「よく分かったな」
私の質問に頷きながら、驚いた様子で目を瞬かせる。
そんな私達の会話を聞いて、周囲の冒険者達もにわかに騒がしくなった。
「アクセサリー? なんでそんなものがモンスターに付いてんだ?」
「誰かの従魔……ってことはないよな、ライガルガに限って」
「あんなのをテイム出来たら、そんなの伝説級のテイマーじゃねえか。あり得ねえよ」
周りの人達はそう言っているけど、私は逆に確信を得ていた。
間違いない、あの子だ。
私の従魔が……家族が、森にいる。
「マナミ、何か知ってるの?」
首を傾げるミレイさんに、どう答えるべきか迷う。
……どうせ、いつかは話さなきゃいけないことだし……言っちゃおうかな。
「ミレイさん、私……二人だけで、話したいことがあるんです」
この世界に来て、まだちょっとしか関わってないけど……私にとって一番信用出来るのは、ミレイさんだから。
私の秘密を、ちゃんと打ち明けよう。
「分かった、宿でいいかしら?」
「うん!」
そんな決意と共に、私は大きく頷くのだった。
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