第32話 人魚の情報収集

 人魚騒動について調べるに当たって、ネルちゃんの協力を得られることになった。


 正直なところ、ネルちゃんもずっとアクアレーンで暮らしてたみたいだし、手伝って貰うこともそうないんじゃないかな……って、そう思ってたんだけど。


 その認識は甘かったって、すぐに理解することになった。


「おおう!? お前さん、もしかしてネルちゃんか!? こんなに大きくなって、久しぶりだな~~元気にしてたか~~??」


「わっ、わっ」


 行く先々で、ネルちゃんのことを知っている人が私達を歓迎して、最初から友好的に接してくれるんだ。

 ネルちゃんは小さすぎてあまり覚えていないみたいだけど、この島の人達はちゃんとネルちゃんのことを覚えていてくれたみたい。


 漁師のおじさん犬獣人に物凄い勢いで撫でまわされたネルちゃんは戸惑いの声を上げるも、再会の喜びに沸くおじさんには聞こえていない様子。


 多分、ネルちゃんが手伝うって言ったのはこういうつもりじゃなかったとは思うんだけど……せっかくだし、遠慮なく乗っからせて貰おうかな。


「すみません、一つお聞きしたいことがあるんですけど……いいですか?」


「おう、なんだ? 何でも聞いてくれ」


 人魚騒動を解決するために情報を集めていることを伝えると、おじさんはびっくりして目を丸くしている。

 実は人魚が私の知ってる子の可能性があって、私を探して迷子になっているのかもしれないっていう話を伝えると、難しい表情で唸った。


「そういうことなら、早いところ飼い主……飼い主? のところに戻してやらねえとな。俺達としても困ってるところだし、ネルを連れて来てくれた恩人だってんなら協力は惜しまねえよ」


「ありがとうございます!」


 というわけで、おじさんからは人魚が現れた海域をワールドマップ上にいくつか示して貰うことが出来た。


 お礼を言って別れた私は、改めてミレイさんと話し合う。


「これで五人目ですけど、どう思いますか?」


「人魚がどこに現れるかは、大体絞れて来たわね。可能性が高いのは……ここと、ここと、ここ」


 ミレイさんがマップを指差すと、その三か所が光点で示される。

 このどこかに、あの子がいるのかな?


「後は、ここにどうやって行くかだけど……」


「ヴァールを出すのはやっぱりダメですよね」


「流石に大物過ぎるからね……となると、船を出して貰いたいところではあるけれど、誰に頼むかが問題ね」


 ヴァール……海竜リヴァイアスほどじゃないけど、今探している"人魚"も私の想像通りの子ならララより強い。


 まだ怪我をしたとか、そういう被害は出ていないみたいだけど、進んで関わりたいと思う人がどれくらいいるのか。


 私としてもあまり強制はしたくないし……。


「じゃあ、ナルムさんに良さそうな人を手配して貰う感じでしょうか?」


「そうなりそうね」


 話し合った結果、最後はそういう結論になり、獣議堂へ向かう。


 すると、建物の前に若い男の獣人……熊みたいな耳を持った人が詰めかけているところを目撃した。


「おい、出てこいよ獣王!! 俺の話を聞きやがれ!!」


 なんというか、間が悪い時に来ちゃったなぁ、って思っていると、その人から思わぬ発言が飛び出した。


「人魚騒動、いつまで放置してんだ!! いい加減何とかしろ、じゃなきゃ俺がこの手で討伐しに行くぞ!!」


 物騒な発言……とは言えないよね、問題になってはいるんだし。

 ただ、討伐は私も困る。いや、無理だとは思うけど、それでこの人に何かあったら、たとえ再会出来てもすんなりと問題が解決しないかもしれない。


「ねえ、そこの人!」


「んん? なんだお前は」


 私が話しかけると、ヒートアップしていたのが嘘みたいにスッと落ち着いて、こっちを向いてくれた。


 思ったよりも冷静な人なのかもしれない。


「私達、その獣王様から許可を貰って、人魚騒動の解決のために動いているんです」


「なにっ、本当か!?」


「はい。でも解決のためには、船が必要で……もし用意出来るなら、手伝って貰えませんか?」


「マナミ、いいの?」


 私の提案に真っ先に反応したのは、ミレイさんの方だった。


 俺が討伐するんだ! なんて息巻いている人を協力者に選んで大丈夫か心配しているんだろうけど……変にここで放置して、肝心な時にブッキングしたら最悪だし。


 それに……島のために自分一人でも戦うっていう心意気があるこの人なら、目標ポイントまで連れて行って貰うのにちょうどいいし。


「大丈夫です、この人にお願いしましょう」


「分かった、マナミの判断を尊重するわ」


 ミレイさんからの許可が出たところで、改めて男の人に目を向ける。


 そんな私に、その人も大きく頷いた。


「ああ、船くらいいくらでも出してやる。だから俺にも協力させてくれ!」


「はい、よろしくお願いします!」


 こうして私は協力者を得て、ついに人魚騒動の解決に動き出すのだった。

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