第31話 獣王の家族事情

 ネルちゃんのお爺ちゃん、偉い人とは聞いていたけど、まさか獣王だとは思わなかった。


 ナルムさんも、ネルちゃんを見たことで頭が冷えたのか、「続きは落ち着ける場所で話そう」と提案され、ついていくことに。


 案内されたのは、ナルムさん達獣人が会議のために使っている“獣議堂”ってところ。国会議事堂? みたいなもの?


 ただ、建物はコンクリート造りじゃなくて、木造なんだけどね。ただ、大きな平屋で庭に小さな池まで完備している光景は、まるで大河ドラマの中にでも迷い込んだみたいだ。


 そもそもゲームの中に迷い込んでる身で、何を今更って話かもだけど。


「さて……ネル、まずは会えて嬉しく思うぞ。だが、一体何があったのだ? あの馬鹿息子がお前を一人でここに来させるとは思えんのだが……」


「……その……」


 やっぱり気になるのか、畳の部屋に着いた途端、まず聞かれたのはネルちゃんのことだった。


 それを受けて、ネルちゃんはゆっくりと自分の身にあったことを語り出す。


 時間をかけて、全てを語り終えた後……ナルムさんは、号泣していた。


「くぅ……!! まさか、ワシの知らないところでそんなことになっていたとは……!! すまん、ネル。やはり強引にでもアクアレーンに向かうべきだったか!!」


「お、落ち着いて……」


 予想外の反応に、ネルちゃんはどうしたらいいか分からなくてオロオロしてる。


 ただ、嫌われてるんじゃないかって不安がっていたところで、こうやって好意的な姿を見せてくれているからか、戸惑いながらも嬉しそうだ。


 このままそっとしておいてあげたい気持ちはあるけど、ナルムさんは本気でアクアレーンに乗り込みそうなくらいヒートアップしてるし、助け舟を出さないといけないかも。


「落ち着いてください、ネルちゃんも困ってますよ」


「む……す、すまない」


 私が声をかけたら、ナルムさんはしゅん、と一回り小さくなった。


 なんだかちょっと可愛い。


「それじゃあナルムさん、ネルちゃんのこと、お願いしても大丈夫ですか?」


「当然だ、困っている孫を見捨てる祖父などいるはずがないだろう」


「いいの……? お爺ちゃんは、お父さんのこと嫌ってたんじゃ……」


「別に嫌ってはおらん。まあ喧嘩していたのは事実だが……」


 なんでも、ナルムさんとしては獣王の立場を継いで欲しかったけど、ネルちゃんのお父さんは獣王よりも漁師になって海の男として生きていきたかったんだって。


 それで、ネルちゃんのお母さんと駆け落ち同然にアクアレーンに移住しちゃったから、お互いに喧嘩別れみたいな感じだったんだって。


「夢を追うなら、せめて最後まで駆け抜けろというのだ……馬鹿息子が……」


 ボソリと呟かれた一言が、ナルムさんの本心をこれでもかと表してるんだろう。痛々しいその言葉に、誰も何も言えなくなる。


 そんな空気を察したのか、ナルムさんはコホンと一つ咳払いした。


「ともかく、ワシの孫を連れてきてくれたこと、感謝する。一つ借りが出来てしまったし、交易の再開についてもちゃんと交渉の場は設けると約束しよう。まあ、そこから先はそちらの出方次第だがな」


「ありがとうございます!」


 よし、これでカルロスさんから任された仕事は一旦片付いたね。


 ネルちゃんのことも大丈夫そうだし……後、残る目的は一つだけだ。


「それとは別に、一つお願いしたいことがあるんですけど……いいですか?」


「む、なんだ?」


「今トロピカルアイランドで話題になっているっていう人魚の話、私も調べたいんです。解決のために、力を貸して貰えませんか?」


「それは、ワシらとしても協力して貰えるなら助かるが……いいのか?」


「はい、私も……私の家族に関わることかもしれないので」


 私にはネルちゃんみたいに、心配してくれる家族はいなかったけど……その分、モンスター達のことは家族だと思ってる。


 そんなうちの子が迷惑をかけてるなら、一刻も早く再会して、謝らなきゃいけない。


「ならば断る理由はない。ワシらで分かっている情報は全て共有するし、人が必要なら動かせる範囲で派遣しよう」


「ありがとうございます!」


 良かった、情報はもちろんだけど……今回の子は海にいるから、船を出せる人がいないとどうしようもない。


 トロピカルアイランドの獣人達なら、その辺りは余裕だろうし。本当に助かるよ。


「あの……」


「む、どうしたネル」


 そんな話をしていたら、ネルちゃんが小さく手を挙げた。


 ナルムさんが首を傾げると、ネルちゃんは決意の眼差しで言った。


「私も、マナミを手伝う。協力させて!」


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