第15話 野宿(?)

「? ララ、急にどうしたの?」


『いえ、妙な気配を感じたので。もう逃げ去ったようですので、問題ありません』


「そっか、ありがとう、ララ」


『ガルッ!』


 お礼がてら撫でてあげると、ゆっくりと尻尾を揺らしながら嬉しそうに鳴く。


 そんなララの鬣をわしゃわしゃしてしばらく戯れた後、私は改めて門を開いて貰い、ファームに入る。


 薬草関係の畑と、生産系モンスターが生活しているこの空間には、小さいけど作業用の小屋があるから、野宿が必要ならファームの中で休もうってミレイさんに提案したんだ。


 出る時は、ちゃんと入った時と同じところから出られるしね。


「まさか野宿いらずなんて……マナミにはつくづく驚かされるわね……」


「ララのお陰です! さあミレイさん、晩御飯作りますから、そこで座って待っていてください!」


「あはは、分かったわ」


 ミレイさんをテーブルに着かせ、私は調理に取り掛かる。


 と言っても、このファームで常備されてるのはモンスター達の飼料くらいだ。


 なので、出発前に買っておいたパンと塩、それに保存食の干し肉に、コッコの卵とドッスンの果物しか食材がない。


 バリエーションは全くないけど、ご飯らしいご飯は作れるから、アクアレーンに着くまではこれで何とかしよう。


 後は、私の《料理》スキルがちゃんと機能するかだけど……。


「おー?」


 作りたいレシピを思い浮かべ、食材と調理器具を前にすると、どうすればいいのかするすると頭に浮かんでくる。


 これなら大丈夫そう、と一安心しながら、私は料理を完成させた。


「ミレイさん、お待たせしました!」


 用意したのは、目玉焼きにトースト、それから干し肉を軽く炙ってベーコンの代わりに添えて、デザートにリンゴをカットしただけの簡単メニュー。


 ゲームでは、“朝食セット”なんて名前で登録されていた一品なんだけど、晩御飯としては物足りない? 大丈夫かな?


「…………」


 料理を前に、ミレイさんはしばし固まったままだった。


 やがて、フォークを手に目玉焼きを一口食べたミレイさんは……ガックリと肩を落とす。


「ええと、美味しくなかったですか……?」


「いえ、美味しい、美味しいわ……!」


 どうやら、不味すぎてショックを受けたわけじゃなかったみたい。


 じゃあどうしたんだろう、と思ってたら、ミレイさんは「だけど、だからこそ!」と声を上げる。


「なんというか……普通に私の護衛料をチャラにしてお釣りが来そうな待遇で、自分の立場がこう……」


 不審者もモンスターもマナミのモンスターがいれば寄ってこないし、町の宿屋にも負けない環境で一食100ゴールドくらいしそうな絶品料理が出てくるし……とミレイさんはつらつらと褒めたてる。


 一食100ゴールドって、スターツの町で一番高い高級料理じゃなかったっけ……宿一泊と同じくらいの値段だよ。それは言い過ぎじゃ?


 とは思うけど、それだけ私の料理を評価して貰えたのは素直に嬉しい。


 だからこそ……。


「ミレイさんがいなかったら、私はこんなに楽しい気持ちで旅に出れてなかったです! 私みたいな、得体の知れない子供と一緒にいて、色んなことを教えてくれるだけでも大助かりですから……立場なんて気にしないでください!」


「マナミ……」


「どうしても気になるなら、この後、従魔のみんなにご飯を配るので、それを手伝ってください! 結構大変なんです!」


「……ふふ、分かった。ありがとうね、マナミ」


 私の力説を聞いて少し気が楽になったのか、表情を緩めながら私を撫でるミレイさん。


 いつもの様子に戻ってホッとした私は、そのまま食事を再開して、摘み食いしたがるプルルにも少し分けて上げたりして……食べ終わった後は、ミレイさんと一緒に外に出て、従魔のみんなにご飯を配って回った。


 モンスターへの餌やりなんて初めてだって、ミレイさんが少し戸惑ってるのがちょっと可愛い。


「マナミの従魔ってどれもこれも体が大きいわよね……どうやったらこんなに育つの?」


「希少個体なんです。たまーにいるんですよ、こういう体の大きなモンスターが」


 希少個体のモンスターは、ステータスに少しだけボーナスが入るのと、生産系モンスターだとその品質や生産量がアップする。


 デメリットとして、必要な食事量が増加するっていうのがあるけど、これくらいは些細な問題だろう。


「こんな数の希少個体を集めるなんて……一体どんな人がマナミを拾ったのかしら……」


「あはは……」


 どうもミレイさんは、前に話した事情を自分なりに解釈した結果……私を拾ったテイマーの師匠がいて、ララ達はその師匠の遺産だと思っているみたい。


 異世界から来た、よりその方が理解されやすいだろうし、わざわざ否定しなくてもいいのかな?


 そんなことを考えながら、みんなの餌やりを終えた私達は、おやすみの時間になる。


 ベッドは一つしかないので、ミレイさんは寝袋を使って寝ようかと言っていたけど、そこは強引にベッドに入って貰った。


 せっかく私の体も小さいんだから、一緒に寝たい。


「今日から毎日一緒に寝ましょう、雇い主命令です!」


「ふふ、命令なら仕方ないわね」


 ミレイさんと二人でベッドに入り、そのまま抱き着く。


 そんな私に目を瞬かせたミレイさんは、そのまま頬を緩めて抱き返してくれて……そこへ、プルルが自分も混ぜろとばかりに滑り込んできた。


 満足そうにぷるぷる震えるプルルを見て、私とミレイさんは顔を見合わせて笑い合う。


「おやすみなさい、マナミ」


「おやすみ、ミレイさん」


 こうして、私達の旅の小休止は、平穏に時が過ぎていくのだった。

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