第16話 町に到着……と同時にトラブル

 スターツの町を出発して三日。ついに、港町アクアレーンに到着した。


 海を中心に、三重に建てられた半円の外壁。

 なんでこんなに厳重なのかなって思ったら……ミレイさん曰く、最初は小さな漁村だったところから順番に発展していった名残なんだって。


 外壁を壊して大きく建て直すくらいなら、古いのも残したまま新しいのを建てた方がいいよねってことみたい。


 そんなアクアレーンの門に近づくと、案の定というかパルパルの存在感でちょっとした騒ぎになった。


 冒険者ギルドで“従魔証”っていうタグを貰ってパルパルの首にかけてなかったら、どうなってたことやら。


 けど、ミレイさんは私とちょっと違う理由でホッとしたみたいだった。


「早めに向こうを出て良かったわね。ライガルガの件が知れ渡っていたら、こんな騒ぎじゃ済まなかったでしょうし」


「そうなんですか?」


「Sランクモンスターをテイムしてるんだもの、経緯はどうあれ、そんなテイマーがいたら誰だって注目するわ」


 スターツの町は、物流の中継点ということで元々人の出入りが激しいから、特に引き止められなかったけど……所によっては、何とか定住させようとしてくるかもしれないとのこと。


 うーん、ちょっと怖い。


「まあ、ここは町長がマナミと同じSランクモンスターのテイマーなわけだし、大丈夫だと思うけれどね」


 アクアレーンの町は、守護神である海竜リヴァイアスを代々の町長が継承しているらしいから、確かに絶対引き止められるってことはないのかな?


 そう考えたら、ちょっと気が楽になったかも。


「着いたら、早速レストランに行ってみましょう、どんなお料理が出てくるか、楽しみです!」


「ふふ、そうね」


 そんな感じで、呑気にお喋りしていた私達は、そのまま無警戒に検問の順番待ちをして……。


 気付いた時には、町の衛兵達に囲まれていた。


「ちょっと、これはどういうこと? いきなり取り囲むなんて穏やかじゃないわね」


 ミレイさんが馬車を降りて、衛兵達に文句を言っている。


 衛兵相手にあんな態度で大丈夫かな、って少し心配になったけど……どうやら衛兵の人達も、別に私達を逮捕しようとか、そういうつもりだったわけじゃないみたい。


 申し訳なさそうに一人の衛兵……隊長っぽい人が頭を下げると、ミレイさんに話し掛けた。


「すみません、どうしても確認したいことがありまして……こちらのアルパーンの希少個体は、あなたがテイムを?」


「私じゃなくて、馬車に乗っているあの子だけど……それがどうしたの?」


 ミレイさんの回答に、隊長さんはびっくりして目を丸くする。


 本当に? という感じでミレイさんを見て、私を見て……嘘じゃないと信じてくれたのか、あるいは疑ってる場合じゃないくらい切羽詰まっているのか。隊長さんは、もう一度深々と頭を下げた。


「実は、町長からの指示がありまして……凄腕のテイマーが町を訪れることがあれば、すぐに町長の屋敷まで連れてくるように、と。どうか、我々と同行して頂けないでしょうか?」


「町長が……? どうしてまた?」


「理由は、この場では申し上げられません。しかし、決して悪いようにはしないとお約束致します」


 理由を話せないっていうのは気になるけど、なんだか本当に困っているように見えた。


 だから、私も馬車から降りて隊長さんの前に向かう。


「いいですよ、ついていきます」


「マナミ……いいの?」


「はい、本当に何か悪いことをしようってわけじゃなさそうですし……それに」


 私は、ぎゅっとミレイさんの羽織るローブの裾を掴む。


「もし何かあっても、ミレイさんが守ってくれますよね? だから大丈夫です!」


 最悪、《強制召喚》でララを呼び出すっていう手もあるしね。

 野生だと50レベルのライガルガだけど、私のララは200レベル、誰が相手でもよっぽど負けないはずだ。


 まあ、それは本当に最終手段だから、出来ればやりたくないけど。

 ゲームならまだしも、現実でそれをやったら町が廃墟になっちゃいそうだし。


「マナミ……! 分かったわ、行きましょうか」


 ミレイさんは私の手を繋いで、絶対に傍を離れないと無言のアピールをしつつ、隊長さんに向けて小さく頷く。


 それを見て、隊長さんもホッと胸を撫で下ろしていた。


「それでは、こちらへどうぞ。あなた方の馬車とアルパーンも、私どもで責任を持ってお預かりしますので、ご安心ください」


「分かりました。パルパルは丈夫ですけど、その分ちょっと鈍いところがあるので……建物とかに体を引っ掛けて壊さないように、気を付けてあげてくださいね」


 体が大きなモンスターの宿命というか……ゲームでも、パルパルはよくオブジェクトに引っかかっスタックして動けなくなってたんだよね。


 ここに来るまでの間でも、道にはみ出した木の枝がモフモフの毛に引っ掛かってへし折れたり、そのまま気付かずにプラプラさせたまま歩いていたりと、安定の鈍さを発揮していた。


 そのことを伝えると、隊長さんは少しだけ可笑しそうに表情を緩める。


「教えてくれてありがとう、気を付けるよ」


 少しだけ腰を落とし、視線を合わせてお礼を言ってくれる隊長さん。


 そんな彼に、私も笑い返して「お願いします!」と頭を下げるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る