第36話 装備制作
ファームでの採取を終えた私は、早速調理と調合、製作に取り掛かる。
まず作るのは……。
「ねえマナミ……それ、本当に使うの?」
「? はい、すごく丈夫でいい素材ですよ?」
ウミヘビ……シャークマリナのスネルが脱皮することで得られる《海蛇の皮》を使った、浮き輪だ。
確かに素材単品で見るとちょっとグロテスクだけど、完成品は綺麗だよ。
というわけで、持ち込んだ針と糸を使って、浮き輪を作っていく。
普通に考えたら、縫っただけで浮き輪なんて出来るわけがないんだけど、スキルの力で一切空気が漏れない完璧な繋ぎ目になるので問題ない。
いやうん、スキルってすごいね。
「よし、でーきた!」
完成したのは、スネルの斑模様が浮かぶ渋いデザインの浮き輪だ。
試しにファーム内の水農場の上に乗せてみると、ちゃんと沈まず浮かび上がった。
ぴょーん、とプルルが浮き輪の上に乗って跳ね回り、バランスと浮力も問題なさそうだと証明してくれる。
……まあ、プルルは単に浮き輪で遊んでるだけで、装備の検証をしてくれてるつもりはないんだろうけど。
「へえ、意外と頑丈そうね……ところでマナミ、これってどれくらいのペースで作れるものなの?」
「ぶっちゃけ、スネルの脱皮ペースによるので作れても日に一つです!」
大量生産するなら欠陥どころじゃない商品なんだけど、私が目指してるのはあくまで行商人だから、一日一つの限定販売でもまあ大丈夫だろう。
「ちなみに、装備すると《遊泳》スキルの他に、防御力も結構上がります」
「これを装備するだけでスキルが!? けど……防御力?」
「えーと……」
どうやら、スキルはあっても攻撃力とか防御力みたいな基礎ステータスの概念はないみたい。
どう説明したらいいんだろうと考えて、私はプルルに料理用の包丁を取り出して貰った。
「こういう、ことです!」
それを思い切り浮き輪に振り下ろすと……バインッ!! と。
全く刃を通さず、跳ね返されてしまった。
……いやうん、想像以上に丈夫だね?
「なんて高い防刃性能……というかマナミ、こんなのによく針を通して加工出来たわね……?」
「スキルの力です」
便利だよね、スキルって。
「下手な鎧よりも身を守ってくれると思います。浮き輪で受けられればですけど」
ゲームだとステータスに上乗せされる形だからあまり気にならなかったけど……こうして現実になった今、ちゃんと見た目通り使いにくい装備になってはいるんだよね。
うーん、そう考えるとあんまり使い道ないかな?
「ミレイさん、これ一つでいくらくらいになりますかね? 私としては、一万ゴールドくらいになればいいかなって感じなんですけど」
「いや、安すぎるわよ、最低でも三万は付けないと、他の職人達に市場破壊だって刺されちゃうわよ?」
ひえっ……!
前にポーションを買い叩かれた時から思ってはいたけど、改めて物を売る時はミレイさんに相談してからにしようと固く心に誓った。
「何なら、私も欲しいくらいよ。マナミがアクアレーンを拠点にする以上は、海上で戦う機会も増えるでしょうし」
「あ、そういうことならこれはミレイさんにあげますよ。日頃のお礼ってことで!」
はい、と手渡すと、ミレイさんは分かりやすく動揺し始めた。
「いやいや、こんな高価な装備、ポンとタダで貰うわけにはいかないわよ!?」
「試作品ですから大丈夫ですよ。それに、ミレイさんは私の専属護衛ですもん! これはあれです、先行投資ってやつですよ!」
この世界にレベルの概念があるのか、あったとして経験値の判定がどうなってるのかも分からないけど、装備品で20〜30レベルくらい下駄を履かせることは出来るはずだ。
ミレイさんの予想レベルもそれくらいなので、単純に戦力二倍。ちょくちょく言われてるSランクモンスターとも渡り合えるようになる……と思う。
まあ、浮き輪一つでそこまで変わるわけないけど、いずれはそうなるように全身装備を用意してあげたいな。
「ありがとう、マナミ。これを使って、ちゃんとマナミのことを守れるように頑張るわね」
「はい! ……あ、使うならちゃんと水中とか水上で使ってくださいね? 陸上用はこれから作りますから」
「え」
これで終わりだと思っていたのか、ミレイさんが目を丸くしている。
いや、いくらなんでも常時浮き輪を着けて貰おうなんて考えるわけないでしょ?
「パルパルから採れる《アルパーンの毛》もある程度集まってると思うので、ここの素材と合わせて戦闘にも使える服を作るんです。楽しみにしててくださいね!」
「そ、そう……ほどほどでお願いね?」
微妙に顔を引き攣らせているミレイさんを余所に、私は次なる装備の製作に入る。
さーて、上手くいったら売り物にもなるんだし、がんばるぞー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます