第37話 空気草の活用法

 アルパーンの毛で装備を作ると言っても、ここは常夏の島、トロピカルアイランド。

 どちらかというと寒冷地仕様の厚着の方が作りやすい素材だし、金属素材や強化アイテムもなしに性能特化の装備を作るのは流石に無理だ。


 なので、ひとまずは性能よりも普段使いのしやすさを優先して、私自身とミレイさん用に半袖のシャツとスカートを作ってみた。ついでに、ネルちゃんにもマフラーを作ってあげた。


 白をメインとした、動きやすいのに初心者用の革装備よりずっと丈夫なそれを着て、ミレイさんは頭を抱えている。


「本当にこれで本気じゃないの……?」


「はい! と言っても、これ以上となると本当に貴重な素材を集めないと無理なので、私も数えるくらいしか作ったことはありません。逆にこういう服はスキルの練習のためにたくさん作ったので、慣れてます」


「まあ、確かに素材が良ければ腕が上がりやすいのも分かるけれどね……マナミのファームとそこで手に入る素材は一級品ばかりだし。でも、だからってこのレベルの装備品を当たり前のように量産出来たら、市場もへったくれもないわね」


 売る時は絶対に安売りしちゃダメよ、とミレイさんに釘を刺され、私は何度も頷いた。


 うーん、この調子だと、そのうち本当に最高の素材で最高品質の装備が作れたら、ミレイさん卒倒しちゃうかも。


 そうならないように、今から慣れていって貰わないとね。


「それじゃあ装備品は高級路線ということで、ご飯は庶民向けでいきましょう」


「マナミの庶民向けは感覚がおかしなことになってるからちょっと信用出来ないけど……何を作るの? やっぱり焼きそば?」


「はい、それもこっちで作るつもりですけど、せっかく海の素材が増えたので、バリエーションを増やそうと思います」


 今回新たに食材として使うのは、空気草だ。

 これはエアポーションの素材になるアイテムなんだけど、ジュースに溶かせば炭酸になり、じっくり煮込んで空気を抜けば海藻として食べることも出来るというなかなかに広い用途を持つアイテムなんだ。


 というわけで……。


「砂糖と空気草で作ったサイダーです、飲んでみてください!」


 作り方は簡単、砂糖水に空気草を入れ、調理スキルを使いながら混ぜるだけ。


 これは本当に簡単だから、大して高くもないだろう。


「ん……普通に美味しいわね、これなら普通の人にも取っ付きやすい値段で売って大丈夫だと思うわ」


「いくらくらいでしょう?」


「そうね、10ゴールドくらい?」


 うん、やっと私のイメージと同じくらいの商品が出来たよ。


 サイダーなら現地の特産品と混ぜて色んなジュースにすることも出来るし……正直、これまでで一番行商人っぽいもの作れた気がする!!


「マナミの中の行商人のイメージが微妙に間違ってる気がしないでもないけど……」


「ほえ? そうなんですか?」


「まあ、生活出来ればなんでもいいのよ、生活出来れば」


 ポンポンと私を撫でて、そう締め括るミレイさん。


 なんだか微妙に釈然としないけど、生活出来ればいいというのはその通りだしなんとも言えない。


「そうだ、ネルちゃんはどう? 美味しい?」


「舌がぴりぴりして変な感じ……けど、美味しい、かも?」


 ネルちゃんは炭酸水の刺激は初めての経験だったのか、舌の先っちょで少しずつ舐めるみたいにして飲んでる。


 ただ、全くダメって感じでもなさそうだから、慣れれば気に入って貰えるかも?


 ちなみに、プルルは心配するまでもなくハマったみたいで、サイダーを作るのに使った鍋ごと傾けて飲んでた。


 ちょっとプルル、飲み過ぎだよ! ていうか、なんだかいつもより体が赤くなってない?


 えっ、もしかしてサイダーで酔ったの? スライムが?


「それじゃあ次は、空気草でお味噌汁作ってみるね」


 プルルが炭酸で酔っ払うという予想外な事態が起こったけど、気にせず次の料理へと駒を進める。


 お味噌汁のポイントは、空気草を海藻として使うこと以外にも、セイレーン達が獲って来てくれた魚を出汁として利用しているところだ。


 これがないと、ただ手作りしただけの素人お味噌汁で終わっちゃうからね。食材の拘りは大事だよ!


「というわけで、どうぞ、召し上がれ!」


 完成したところで、早速実食して貰う。

 上手くいったら、お肉を入れて豚汁にするのもいいなぁ、なんて考えながら感想を待っていると……ミレイさんが、ぐっと親指を立ててくれた。


「うん、これも美味しいわ。十分売り物になると思うけど……」


「けど?」


「焼きそばに、サイダーに、味噌汁に、アイテムや装備品も売ろうとしているんでしょう? 流石にあの屋台じゃ小さすぎるんじゃ……?」


 確かに、私が最初に買った屋台はあまり大きくないやつだし、そんなに色々と置いておけるスペースはないと思う。


 だけど……。


「そこは大丈夫です、プルルの力を利用すれば、スペースの問題は概ね解決出来るはずですから」


 全く違う料理や商品をいくつも並べるのが難しいのは、それだけの調理器具や商品を並べるスペースがないから。


 だけど、プルルの収納スキルならかなりの量の商品をこの小さな体に納めておけるし、宣伝方法さえ考えればいけるはず。


「というわけで……まずはやってみて、ダメなところは後から考えましょう」


「分かったわ。それじゃあ早速、マナミの初商売、行ってみましょうか」

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2024年12月27日 12:00

ちびっこテイマー、異世界で行商人を始めました ジャジャ丸 @jajamaru

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