第18話 町長からの依頼
海竜リヴァイアスの再テイム。
そんなとんでもない依頼に、私はポカンと口を開けて……一足早く衝撃から立ち直ったミレイさんが、カルロスさんに詰め寄った。
「いや、大問題じゃないですか!? そんなこと、余所者の私達に頼むことじゃないでしょう!?」
私としては、余所者だと何が悪いんだろう? って感じなんだけど、カルロスさんもそんなことは分かっているって感じで頷く。
「内々で片付けたかったのは事実だ。だが、アクアレーン出身の人間に、腕の立つテイマーはいないんだ。だからと言って、信頼出来る人間を一人一人選別していられるほどの余裕もない」
それはそうだと思う。
"門番"に設定したモンスターを従魔から解放した場合、ファームがなくなって中にいる他の従魔やプレイヤーは全部弾き出される。
契約が切れたはずなのにファームが機能している、今の方がおかしいんだ。
異常な状況が、今後も続くわけがない。早く何とかしたいっていう気持ちは分かる。
「腕の立つテイマーで、ある程度信用出来そうだと判断したら、その者に頼もうと思っていたんだ。だが、テイマー自体数が少ない上、明らかに腕が立つと分かるモンスターをテイムしているとなると……もう、丸一年見ていない」
そんな中で現れたのが私達だったんだって、カルロスさんは語る。
「随分と無茶なことを言っていることは理解している。ダメだったとしても責めたりはしないし、成功すれば出せるだけの褒章を出そう。だから、挑戦だけでもしてくれないか……!!」
この通りだ、とカルロスさんは頭を下げる。
もう、本当に切羽詰まってるんだってこれ以上ないくらい伝わって来るよ。
「分かりました、私に任せてください」
「マナミ!? 大丈夫なの? いくら失敗してもいいと言っても、相手はSランクモンスターよ。何が起きるか……」
「大丈夫です、モンスターのことなら、私は誰にも負けませんから!」
そのSランクがレベル50相当なら、本当に何の問題ないんだよね。何なら、力ずくで倒してテイムだって出来ると思う。
ただ、この手のクエストって、力ずくで終わらせようとするとちょっと後味が悪い結末になるのがお約束だ。
"父の代で契約を打ち切られた"ってカルロスさんも言ってたし、そこにも何か事情がありそうなんだよね。
少し慎重に立ち回る必要はあると思う。
「……分かったわ、マナミの判断を信じる。けど、私も精一杯サポートするから、何をするにもまずは相談してね?」
「はい! ありがとうございます!」
画面越しのゲームなら一人で十分だけど、現実として対処するには、私みたいなちびっこじゃあ厳しいことも多い。
ミレイさんが協力してくれれば、取れる手段もぐっと増えるはずだ。
「それじゃあ早速ですけど……カルロスさん、リヴァイアスがどこにいるかは分かりますか?」
どれだけ知識や力があっても、リヴァイアスがどこにいるか分からないとどうしようもない。
そこを確認すると、カルロスさんは渋い表情で頷く。
「リヴァイアスの生息地は把握している。契約が切れてからも、特に移動はしていないんだ。ただ……それは海の中にあって……」
「あー、どうやって行けばいいのか分からないって感じですか」
確かに、海の中にいるモンスターをテイムするのは難しい。
私達人間はもちろん、モンスターだって陸生の方が多いからね。
テイムするなら、相手モンスターを戦闘で弱らせるのがセオリーなのに、人によっては戦うことも出来ないんだもん、当然だよ。
「そこはどうにかなると思います。ミレイさん、集めたい素材があるんですけど、手伝って貰えますか?」
「もちろんよ。けど、何を集めるの?」
「それは後でメモをお渡ししますね。色々とありまして……集めた素材を使って、水中で活動するための"
エアポーションは、それを飲むことで一定時間水中でも息が出来るようになるっていうアイテムだ。
水中で呼吸すると、水が全部空気に変わるっていう摩訶不思議な効果を持ったポーションなんだけど、いくつか特殊な素材が必要だから作るのがちょっと大変なんだよね。
でも、素材自体は海の近くなら手に入るものばかりだし、ミレイさんに手伝って貰えれば何とかなるはず。
「それから、カルロスさんにはもう少し、リヴァイアスについて詳しい話が聞きたいです。契約が打ち切られたって、一体何があったんですか?」
「……我が家の恥を晒すようで言いづらいのだが……そう言っていられる状況でもないな」
はあ、と溜息を溢しながら、カルロスさんは語り始める。
その内容は、確かに恥と言っても過言じゃないものだった。
「僕の父が……その、リヴァイアスの同族……保護すべき水竜達を無理やり捕縛して、最強の海軍を作り上げると言い出して……嫌がる水竜を力で従わせようと攻撃を仕掛けて、返り討ちに……」
「…………」
そりゃあ、水竜を保護することを条件に従魔の契約を結んでいるリヴァイアスからしたら、そんなのはあまりにも酷い裏切りだし、打ち切られて当然だよね。
しかも、それで町長が死んじゃったせいで、まだ若いカルロスさんが契約打ち切りなんて未だかつてない事態のまま引き継がなきゃいけなくなって……このままファームが消えてなくなったりしたら、間違いなく責任を取らされる状況になってると。
「僕は……何も悪くないのに……」
あまりにもその通り過ぎて、もはや何も言えなくなる。
そんな時、ミレイさんがカルロスさんの肩に手を置いて、一言。
「まあ、その……そのうち良いことあるわよ、元気出して」
ずっと警戒していたミレイさんからの慰めに、カルロスさんはついに堪えていた感情が決壊したのか、思い切り泣き始めるのだった。
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