第25話 焼きそば作り
アクアレーンに来てすぐ、海竜リヴァイアスのテイムなんていう大仕事を任されて延期せざるを得なかった私の商人デビュー。
カルロスさんの後ろ盾も得て、正式に商人としてどこの町でも活動出来るように認可まで貰っちゃって、さあ後は売るための商品作りだと意気込んで、リヴァイアスのファームに取引のためやって来たんだけど……。
「あらあらあなたが聖女様? 本当にありがとうねえ、うちで採れたお野菜、お礼にあげるから持って行ってちょうだい!」
「こいつはうちで育てた牛の肉だ、料理するなら是非使ってみてくれ!」
「うちも──」
「…………」
取引するまでもなく、農家のおばちゃんやら畜産家のおじさんやらがたくさんの食材を分けてくれた。
とても持ち切れないから、プルルのスキルで収納しといて貰ったんだけど……いや、いくらなんでも多くない!?
「あはは……マナミ、人気者ね」
「う〜、なんだか落ち着かないです……こういうの初めてだから……」
ミレイさんからしても予想外だったのか、ちょっと苦笑気味だ。
そして私も……長い入院生活だったから当たり前だけど、こんな風に人から感謝された経験なんて一度もない。
慣れない待遇に落ち着かなくて、ソワソワしちゃってる私を、ミレイさんはそっと撫でた。
「マナミはそれだけすごいことをしたってことよ。誇りに思っていいのよ」
「そう、ですか……? うー……」
「いきなりは難しいかもしれないけれど、マナミならこれから先もきっとこういうことは何度もあるから、今のうちから覚悟しておいた方がいいわね。ふふっ」
「むう、その時はミレイさんも一緒ですからね!」
なんだか他人事みたいに笑ってるミレイさんに、私は思わず文句を言う。
けれど、それを聞いたミレイさんはなぜか嬉しそうに笑みを浮かべ、私を撫で続けた。
「そうね、一緒に……ね」
「???」
よく分からないけれど、道連れが出来たのでよしとしよう。
後は、せっかくこんなに貰ったんだし、最初に作った屋台向けメニューはこのファームにいる人達に配って回ろうかな。
というわけで、私はファームの中にある農家さん達向けの食堂で厨房をお借りして、料理を始めることにした。
「それでマナミ、どんな料理を作るの?」
「色んな食材がありますからね、これを出来るだけ使いつつ、屋台で提供出来る料理……“焼きそば”を作ります!!」
「焼きそば?」
「はい!」
野菜にお肉に、それからクラーケンを倒したからその肉……肉? もたくさんあって、せっかくだからってプルルが収納しといてくれたんだよね。
その辺りの食材を余すことなく使うなら、焼きそばが一番定番だと思うんだ。
……というか今更だけど、プルルの収納スキルの容量ってどうなってるんだろう。クラーケンなんてクジラみたいに大きかったのに、全部入ってるし。それなのに今も私の肩に乗れるサイズだし。
摩訶不思議なプルルの生態に首を傾げつつ、まあスキルの力だし深く考えてもしょうがないかと切り替える。
「それじゃあミレイさん、早速料理を進めて行きますね!」
「私も手伝うわ。何をすればいい?」
「それじゃあ、一緒に食材を刻んで貰えますか?」
ミレイさんと二人で包丁を握って、みんなから貰った食材を切っていく。
私の背丈だと台に乗らないとまな板まで届かないっていう致命的な事態に気付いた時はちょっぴり落ち込んだけど……いずれはミレイさんみたいな綺麗なお姉さんになるからいいもん。
「よい、しょ……こんな感じ、かしら?」
ただ、そんなミレイさんも料理は慣れていないようで、包丁の扱い方が見ていて少し危なっかしかった。
思わぬ弱点に、少しは私がお姉さんぶれるチャンスだと思って、私はニコニコ笑顔でお手本を見せる。
「違いますよ、包丁はこう持って、食材はこうやって、猫さんの手で押さえて……」
「こ、こう?」
「そうです! 後はこう、スーッと……」
私に言われるがまま包丁を動かして、初めてすんなりと刃が通る。
そのことに感動したみたいに「おお……」と声を出すミレイさんは、なんだか本当に大きな妹でも出来たみたい。
そんな私の眼差しに気付いたのか、ミレイさんは少し恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「ほ、ほら、早く続きをやりましょ」
「はい!」
その後も二人で食材を切って、鍋で炒めて、買ってきた……というかこれもお裾分けされちゃった麺を入れて、たっぷりの塩で味付けして……。
「出来たー!」
完成! 特製塩焼きそば!!
次はソース焼きそばも作りたいけど、前世と違って焼きそばソースなんて売ってないからちょっと研究が必要そうだし、今はこれでよしとしよう。
「ミレイさん、早速味見してみましょう!」
「そうね。……んっ、美味しい!」
ミレイさんと二人でお皿に盛って、口へと運ぶ。
箸がないから、二人揃ってフォークで食べるっていうちょっと変な感じだけど、これはこれで悪くない。
お肉と野菜と、クラーケンのイカ身と、取り敢えず色々突っ込んだ雑な料理ではあるけれど、屋台飯の試作品だしまずはこんなものだろう。
それに、ちゃんと美味しいし。
『────』
「プルルも食べる? はい、あーん」
プルルの体に焼きそばを近付けると、ちゅるちゅると起用に吸い上げていく。
一番上手に食べるかも、と少し可笑しくなって笑っていると、私の口元にハンカチが押し付けられた。むきゃっ。
「口、付いてるよ。ほら、じっとして」
「むぐ〜!」
料理中は立場が逆転したみたいな感じがしていたけど、やっぱり最後はこうなってしまうのか。
私のお世話を焼きながら笑うミレイさんを見ながら、私自身も気付けば笑みが溢れていた。
なおその後、食材を分けて貰ったお礼にと焼きそばを配り歩いてみたら反響が凄すぎて、「早くお店を出してくれ」と必死にお願いされる事態になってしまうんだけど、それはまた別のお話。
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