第20話 海竜リヴァイアス

 準備が整ったところで、私達はリヴァイアスに会いに行くことになった。

 事情が事情だし、ララと同格のモンスターなら人の言葉も喋れるだろうから、まずは話し合いだけどね。


 リヴァイアスがアクアレーンの人達をどう思ってるかはまだ分からないし。


「依頼者である僕が言うのは筋違いかもしれないが……あまり無理はしないでくれ。最初に言ったが、失敗しても責を問うつもりはない、ダメだと思ったらすぐに諦めてくれ」


「承知してますよ、私としても、この子が一番大事ですから」


 カルロスさんの言葉に、ミレイさんは私の頭を撫でながらそう言ってくれる。


 ……ミレイさんが、どうして私のことをそこまで想ってくれてるのか、未だによく分からないけど……いつか教えてくれるかな?


「マナミ、準備はいい?」


「はい! お願いします、ミレイさん!」


 今回の目的は、リヴァイアスとの接触が第一。そして、反応を探る。


 そのままテイム出来そうならしちゃうけど、そのまま戦闘になりそうなら一時撤退して、また改めて作戦を練るつもりだ。


 その上で、ミレイさんには私が溺れないようにララにしがみつくサポートをお願いした。


 いやうん、エアポーションの実験中に、あっさり溺れかけたもんね。仕方ないよね。


 一応、あの時は服を着ていたし、今は水着っていう違いはあるけど……だから泳げるってわけじゃないのは、既に試したから分かってる。


 その意味では、私が溺れかけたのは既に二回だったよ。とほほ。


「ララ、お願いね。プルルも、エアポーションをいつでも出せるように準備お願い」


『うむ、任されよ』

『────』


 ララは水中での戦闘要員、プルルはアイテム持ちが仕事だ。


 ぶっちゃけ、ララも水中じゃその能力を全部出し切れるってわけじゃないんだけど……それを込みにしても、大抵のモンスターならレベル差で圧倒出来るはず。


 プルルについては、エアポーションをたくさん用意して、全部持って貰ってる。


 エアポーションは、効果時間が切れる前なら水中でも再使用出来るからね。


 その辺りの管理をしっかりやるために、手巻き式の時計もミレイさんが持ってくれてるから……私はリヴァイアスのことに集中するのが仕事だ。


 完璧、とはいえないけど、今の私達にやれるだけの準備はした。後は、勇気を持ってやってみるだけ!


「よし……行きましょう!!」


 エアポーションを(プルル以外)飲んで、みんなで海に飛び込む。


 このポーションを飲むと水中での動きやすさも増すので、ララは犬かき……いや、獅子だから猫かき? みたいな感じの動きでスイスイと進んでいく。


 そんなララの背中にミレイさんは綺麗に跨り、私はミレイさんの脇に抱えられる格好。プルルはいつも通り私の肩の上だ。


「マナミ、方向はこっちで合ってる?」


 海中を進みながら、ミレイさんが質問してきた。

 エアポーションの効果があれば水中でも会話出来るんだけど、本当に不思議だよね、これ。


「ええと……大丈夫です、このまま真っ直ぐ海底を目指してください」


 プルルが取り出したワールドマップを開きながら、私はそう返答する。


 私がこの世界に転生した時、衣服以外で持っていたほぼ唯一のアイテム、ワールドマップ。


 これ、水に濡れても問題ない上、カルロスさんからリヴァイアスの居場所を教えて貰ったら、そのポイントを光点として示してくれたんだよね。


 なんという便利アイテムかって、私自身はもちろん、ミレイさんやカルロスさんもびっくりしていた。


 これさえあれば、たとえ海の中であっても迷子になることはない。


 難点があるとすれば、あくまで平面のマップだから、水深はよく分からないことかな?


「もうすぐだと思うんですけど……」


 マップと睨めっこしながら、うーん、と唸っていると……スイスイと泳いでいたララの動きが、急に止まった。わわっ!?


 驚いた拍子に大事なワールドマップが手から離れちゃって焦ったけど、すかさずプルルが体を伸ばして、パクッと《収納》スキルの中に仕舞ってくれた。


 ありがとうプルル、後で美味しいものたくさん食べさせてあげるね。


「これは……!!」


 そうやってプルルと戯れていると、ミレイさんの焦った声が聞こえてきた。


 顔を上げると、そこには……水竜、シーサーペントが何体も群れを成して、私達を取り囲んでいた。


 人間なんて簡単に丸呑み出来ちゃうくらい大きくて長い胴体にヒレを生やし、尻尾は魚みたいになっている、イルカと海蛇を混ぜて鱗を生やしたようなモンスター。


 そんなシーサーペント達が、私達に向かって大きく口を開けて威嚇してくる。


『シャアァァァ!』

『シュルルル!』


『やる気か、貴様ら……グルルル……!!』


 警戒心剥き出しのシーサーペント達に、ララはバチバチと角に雷光を灯して戦闘態勢に入る。


 水は電気を通すっていうけど、ララの電気は平気なんだなぁ……なんて、呑気に考えてる場合じゃないか。


「ララ、落ち着いて! この子達と戦闘したら、それこそリヴァイアスとの戦闘になっちゃうよ」


『主! しかしだな……』


「ララなら万が一の時は何とかしてくれるでしょ? だから今は様子を見よ? ね?」


 この子達も、リヴァイアスも何も悪いことはしてないのに、戦闘なんてしたくない。私は話し合いにきたんだから。


 もちろん私だってただ何もせずやられるわけにはいかないから、無理そうだったら撤退するつもりだけど。


『むぅ……』


 少し不満そうに、ララが雷光を引っ込める。


 幸いというか、シーサーペント達は私達を威嚇してはいるけど、それ以上攻撃しては来なかったから、本当に戦闘になることはなかった。


 少しだけ流れる、お互いに牽制し合うような膠着状態。


 それを打ち壊すように、重苦しい咆哮が海中に響いた。


『グオォォォォォ!!』


「っ!?」


 まるで海の中全てを掻き混ぜるような凄まじい声に、私も、ミレイさんも、プルルも、シーサーペント達も……そしてララでさえも金縛りにあったみたいに動きを止めてしまう。


 これ……《グランドボイス》!? 自分よりレベルが低い相手を強制的に一時行動不能にする、ボス級モンスターだけが使えるスキル!!


 でも、私やララは最大レベルにまで至ってるから、本来ならこのスキルを浴びても行動不能になんてなるはずがない。


 ……相手が、普通のボスモンスターなら。


『騒がしいぞ、お前達……この忙しい時に、何をしている?』


 海底から、一体の巨竜が姿を現す。


 真っ青な鱗に全身が覆われた、海に生息する恐竜って感じのモンスターで……見た目からして、恐ろしく強そうだ。


 でも、そんな見た目以上に、私はこのモンスターの強さが想像出来てしまった。


 ゲームにも、いたんだ。でデザインされた、エンドコンテンツ専用のボスモンスター……“レイドボス”が。


 そのレベル上限は、300。


 プレイヤー一人では、逆立ちしても勝てない相手だ。


『ふむ……人間よ、お前達の目的は想像がつく。その状況で攻撃せずに堪えてみせたその胆力に免じて、今回ばかりはこの我……海竜リヴァイアスが話を聞いてやろう。言ってみるがいい』


 元々やる気はなかったとはいえ、最悪でも実力行使で何とかなる……っていう安心感がいきなりなくなったことに緊張しながら、私はリヴァイアスの提案にごくりと唾を飲み込むのだった。

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