第23話 契約の行方

 クラーケンを撃破した私達は、リヴァイアスからのお礼ってことで、一度だけカルロスさんと交渉して貰えることになった。


 よく考えたら、モンスターってテイマーとしか会話出来ないんじゃなかったっけ? と思ったけど、リヴァイアスくらいになると普通に人と喋れるみたい。


 ほえー、レイドボスすごい。


 そんなすごいレイドボスと、港のど真ん中で交渉するわけにもいかないから、アクアレーンを守る外壁の外にある海岸沿いで、カルロスさんと合流したんだけど……。


『この小僧と契約だと? 断る』


 顔を合わせた瞬間、リヴァイアスは一言で切り捨てちゃった。


 取り付く島もない態度に、カルロスさんも唖然としちゃってる。


「ちょっとリヴァイアス、話が違うでしょ!」


『それは我のセリフだ!! 貴様が契約しろというくらいだから、一体どれほどの男なのかと思えば……こやつ、テイマーですらないではないか!!』


「えぇ!?」


 ずっとリヴァイアスを従魔として継承してきたっていうし、当然テイマーだと思ってたんだけど……そうなの!?


 そう思って振り返ると、カルロスさんは気まずそうに言った。


「本当に、ただ契約を継承していただけだからね……もちろん歴代の町長にはテイマーだった者もいるんだけど、僕はその、才能がなくて……」


 いや、うん……この町にリヴァイアスをテイム出来そうな人間がいないとは聞いてたけど、まさかテイマーですらなかったなんて。

 てっきりレベルの問題だと思ってたよ。


『我とて主を選ぶ権利はある。貴様という存在を知った以上、せめて貴様が天寿を全うするまでは他の者と契約し直す気はない』


「えぇ〜〜!?」


 いやだから、それは困るんだって!

 果たしてどう説得したものかと頭を抱えていると、それまで黙っていたミレイさんが口を開いた。


「それなら、マナミをカルロスさんの養子ということにするのはどうです?」


「へ?」


 予想外過ぎる展開に、私はポカンと口を開けて固まってしまう。


 その間にも、ミレイさんはどんどん話を纏めていった。


「マナミが養子になれば、“アクアレーンがリヴァイアスを従えている”という体裁は維持されますし、マナミしか主にしたくないというリヴァイアスの要望にも叶います。それに……身寄りのないマナミには、あなたのような大きな後ろ盾があった方が助かるはずなので」


 なんでも、アクアレーンの町長は元々貴族の家系で、町自体の重要性もあって大きな権力があるみたい。


 そんなカルロスさんの後ろ盾があれば、私が今後他の町へ向かった時も軽く扱われなくなるだろうって。


「もちろん、マナミが嫌なら無理な話ですけれど……」


 そう言って、ミレイさんが私を見て……カルロスさんも、まるで縋るような眼差しを向けてくる。


 ぶっちゃけ、行商人になるにしても活動拠点は必要だったし、転生者っていう不安定過ぎる立場から脱却出来るならありがたい話だ。特に断る理由はない。


 ただ、一つだけ気になることがあるとしたら……。


「ミレイさんは、その……私がカルロスさんの養子になったら、いなくなっちゃったりとか……しませんよね……?」


 正直、今回のリヴァイアスとクラーケンの戦闘は、ミレイさんを巻き込むには厳し過ぎる戦いだった。介入を一切しないにしても、ほんの少し流れ弾が飛んできただけで死んじゃうような。


 それで、私についていけないって思われたんだとしたら……。


 そんな不安に駆られる私の手を、ミレイさんは苦笑交じりに握ってくれた。


「マナミが必要としてくれてる限り、私は傍にいるわよ。私はマナミの専属護衛なんだからね」


「……! あ、ありがとうございます! えへへ!」


 良かった。別にカルロスさんを信用してないってわけじゃないんだけど、私にとってはミレイさんと一緒にいることの方が大事だったから。


 ホッと胸を撫で下ろしていると、カルロスさんとリヴァイアスがタイミングを見て声をかけてきた。


「僕としては、それで構わないよ。むしろ、民に向けて説明しやすくなるから、大助かりなくらいだ」


「ありがとうございます、カルロスさん」


『我も、貴様が主となるならば文句は無い。……いや、これからは貴様ではなく、マナミと呼ぶべきだな』


「うん。……あ、正式に従魔になるなら、私も名前を付けてあげなきゃね」


 忘れるところだったと手を叩く私に、リヴァイアスははてと首を傾げる。

 体の大きさのせいで、海岸に打ち上げられた魚みたいな感じも相まって、ちょっと可愛い。


『我にはリヴァイアスという名があるが』


「それは種族名でしょ? 私からのニックネームみたいなものだよ。うーん、そうだな……よし、ヴァール! ヴァールにしよう!」


 ほとんどその場の思い付きというか、フィーリングで名付けた私に、リヴァイアスは目を丸くして……フッと、表情を緩めた。


『いいだろう、我は今日からヴァールと名乗る。これからよろしく頼むぞ、マナミ』


「うん、よろしくね、ヴァール!」


 こうして私は、この日から“マナミ・アクアレーン”と名乗ることになり……最強のレイドボスが従魔になって。


 ついでに、カルロスさんによるアクアレーンの人々に対する説明で、私は海竜リヴァイアスと一緒にクラーケンを討伐した英雄、《海の聖女》なんて二つ名を頂戴することになった。


 ……いや待って、そっちは聞いてないよ、どういうこと!?

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