第22話 レイドボス、激突

 話が纏まらなかったら一度戻る予定だったけど、リヴァイアスとしては一刻も早くそのモンスターを排除したいってことなので、すぐに向かうことになった。


 予想される海域まではそれなりに距離があったから、シーサーペントの力を借りて移動出来たのは助かったよ。


「マナミ、ごめんね」


「ふえ? どうしたんですか急に?」


 ララをファームに送還し、シーサーペントの背中に捕まって移動している最中、ミレイさんが急に謝ってきた。


 理由が分からなくて困惑していると、ミレイさんは申し訳なさそうに話し始める。


「さっき、リヴァイアスと対峙した時……私、あいつの迫力に呑まれて何も出来なかったから」


「あー……それは仕方ないですよ、私もまさかララよりずっとずっと強いモンスターだとは思いませんでしたし」


 私の予想では、ミレイさんのレベルは20後半だ。レベル300のレイドボスと対峙して、動ける方がどうかしてる。


「でも、私はマナミの専属護衛なわけだから、相手が強いから動けませんでしたなんて言い訳は出来ないわ。……次は絶対に守るからね、マナミ」


「う、うん」


 まるで自分に言い聞かせるみたいに口にするミレイさんに、何か言わなきゃとは思うんだけど……上手く言葉に出来ない。


 そうこうしているうちに、レイドボスの生息水域まで到着してしまった。


 もうお喋りしてる余裕はないってことで、周囲に《探知》スキルを使って……それに反応が出るよりも早く、遥か遠くから迫る大きな影が視界に映った。


『────』


 鳴き声はない。けど、それが迫ってくるのを見るだけで、リヴァイアスの《グランドボイス》を聞いたみたいに体が竦む。


 やがて露わになる、真っ白な体。


 十本の足がうねうねと海中に蠢き、一直線に突き進む姿は巨大な槍みたいだ。


 “海魔”クラーケン。

 ゲームにも出てくる、レベル280相当のレイドボスだ。


『シュアァァァ!』


 天敵の登場に、私達をここまで連れて来てくれたシーサーペントが怯え始める。


 すぐに方向転換して逃げ始めるんだけど、クラーケンの方がずっと早い。


 みるみるうちに追い付かれ、その巨木のような触手が伸びてくる。


「……そろそろかな」


 限界まで引き付けた私は、ミレイさんに支えて貰いながらクラーケンの方に振り返る。


「《強制召喚》──」


 ゲームでテイムしていたモンスターがみんな呼び出せるとしても、戦闘メインじゃなかった私にはクラーケンを倒せない。ただの獲物だ。


 リヴァイアスも、正面から戦おうとしたら、クラーケンは警戒して逃げてしまう。


 なら……私が囮になって、リヴァイアスの目の前に引き摺り出せばいい。


 テイマーならではのやり方で。


「来て、海竜リヴァイアス!!」


『グオォォォォ!!』


 私のスキルで召喚されるのは、クジラみたいに巨大な海の守護神、リヴァイアス。


 この作戦のために、一時的に私の従魔になってくれたモンスターだ。


 そんなリヴァイアスの突然の出現に、クラーケンもびっくりしたみたいに触手を引っ込めた。


『よくやってくれた、人間。後は我に任せろ』


 そう言って、リヴァイアスが咆哮する。

 格下の行動を封じる《グランドボイス》だけど、クラーケンにはあまり効いている感じがしない。互角っていうのは本当だったみたい。


 けれど、そんなのは百も承知だとばかりにクラーケンに噛み付いていく。


『これまで散々我が同胞を襲った報い、この我が受けさせてやろう!!』


『──!!』


 リヴァイアスの牙がクラーケンの体を喰い千切り、クラーケンは喰われた体をすぐに再生させて触手全てで絡み付いていく。


 どっちも私達より何倍も大きなモンスター達が、目の前で激突する凄まじい光景。


 自分のレベルがいくつかなんて忘れて、私も一緒に呑まれちゃいそうになるけれど……ボーッとしているわけにはいかない。


 単にリヴァイアスの問題を解決するだけじゃなくて、それにしっかり貢献して、カルロスさんと再契約して貰える雰囲気にしないといけないんだから。


「リヴァイアス、援護するね!! 《エール》!!」


 テイマーが自分の従魔を強化する、応援系スキル。

 その効果を受けたリヴァイアスの全身が淡い光を放ち、より力強い攻撃を仕掛け始めた。


『オォォォォ!!』


『──!?』


 明らかに勢いが増したリヴァイアスに触手を振り解かれて、クラーケンが驚いている。


 その上で、不利を覆そうと明らかにこれまでとは違う動きを見せ始めた。


 十本の触手の内、“腕”にあたる二本がクラーケンの体の前で円を描き、無数の泡が渦を巻く。


 そこから、凄まじい渦潮が竜巻のようにリヴァイアスへと放たれた。


「《ブロック》!!」


 それを見て使用したのは、応援系の防御スキル。

 《エール》はどちらかというと攻撃面の能力を強化するスキルだから、これで守りを固めて従魔を守るんだ。


 薄く貼られたバリアがリヴァイアスを守り、受けるダメージを軽減する。


 すると、リヴァイアスが私の方をチラリと見て……“合わせろ”と、その眼差しが語ってくれた気がした。


『これで終わらせてくれる……!!』


 クラーケンの攻撃を凌ぎきったリヴァイアスが、その口内に光を収束していく。


 身の危険を感じたのか、クラーケンは身を翻して、その巨体に見合わない速度で逃げようとしたけど……もう、遅かった。


「《ギガエール》!!」


 応援系上級スキル、《ギガエール》。基本的にこの系統のスキルは、上位のものになればなるほど効果時間が短くなるんだけど……その分、タイミングが合えば絶大な効果を発揮する。


 そんな私の支援を受けて、一気に潜在能力を上昇させたリヴァイアスは、その必殺のスキルを解き放つ。


『グオォォォォ!!』


 極太の閃光が海を貫き、クラーケンまで一瞬で追い付いたと思った瞬間、その体を完全に呑み込んで──


 こうして、私立案のレイドボス討伐戦は、完全勝利で幕を閉じるのだった。

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