第3話 町に着きました

 死んだと思ったら、生前やっていたゲームにそっくりな世界に、使っていたキャラクターそのままの姿で転生していた。


 我ながらびっくりな展開だけど、まさかそのまま正直に全部話すわけにもいかない。


 だから、ミレイさんにはかなり曖昧な説明しか出来なかったんだけど……それが逆に良かったのか、ミレイさんには捨て子か何かだと思われたみたい。


 ものすごく優しく声をかけられながら、私の手を引いて町まで連れて行ってくれることになった。


「マナミはどんなスキルが使えるの? ざっくりでいいから教えてくれる?」


「ええと、テイマーなので《テイム》系のスキルと……後は、採取系、生産系、支援系を一通り、です」


 正確に話すとめちゃくちゃ多いんだけど、簡単に分類すればこの四つになる。生産職テイマーの基本構成だ。


 けど、私の話を聞いたミレイさんは、ものすごく驚いていた。


「その歳で、スキルを四つも!? マナミちゃん、あなた天才ね!!」


「えと、そうなんですか?」


「そうよ! 普通あなたくらいの子なら、あっても二つくらいなのに」


 スキル二つは、ゲームを始めた直後のプレイヤーが最初に選択するスキルの数と同じだ。


 レベルを上げる事にスキルポイントを得て、新しいスキルを解放していくってシステムだったことを考えると……私くらいの歳の子は、レベルを一つも上げないのが普通ってことかな。


 キングゴブリンを見ただけで逃げ一択だったミレイさんの様子からしても、レベルが二十を超える人すらそんなに多くないのかもしれない。


 ……私、レベル二百もあるんだけど……これは隠した方がいいのかも。


「でも、そういうことなら町に着いた後もきっと何とかなるわ。マナミみたいな天才児なら、どこも引く手数多だもの。きっと良い人に拾って貰えるわ」


「ありがとうございます、ミレイさん。何かお礼が出来たら良かったんですが……」


「気にしないで、旅は道連れ世は情けっていうでしょ? 私も依頼を終えて町に戻る途中だったし、ついでみたいなものよ」


 なんでも、ミレイさんは街道に大量発生したゴブリンの調査を行うために、あの森に派遣されたんだって。


 一人で? と疑問に思う私に、ミレイさんは自慢げに胸を張った。


「私、これでもスターツの町ではエース冒険者って言われるくらいには腕が立つのよ? さっきのキングゴブリンだって、一対一なら負けないんだから」


「そうなんですか……」


 キングゴブリンと一対一で勝てる魔導士、非戦闘員を守りながらだと逃走が選択肢に入るくらいってことは、レベル二十五から三十ってところかな?


 それでスターツの町……今私達が向かっている、通称“はじまりの町”ではエース級の冒険者とみなされる、と。


 うん、やっぱり私の本当のレベルは黙っておこう。絶対に大騒ぎじゃ済まないし。


 まあ、そもそもこの世界に、ゲームと同じ“レベル”の概念があるのかも分からないんだけど。


「さあ、着いたわよ」


 そんな話をしている間に、私達は無事スターツの町に到着した。


 レンガで出来た家が立ち並ぶ、賑やかな町。

 確か、設定だとこの町は他の色んな町へ向かうための中継地になっているんだったかな? そのせいか、こうして見ても馬車が多くて、商人っぽい人達があっちこっちで商談を交わしている。


 町の入り口で、そんな光景をじっと見つめていると……少し経ったところで、ミレイさんが私に優しく声をかけて来た。


「ほら、こんなところで立ってると邪魔になっちゃうから、行きましょ」


「あ、はい、ごめんなさい」


 つい、初めて見る景色に心奪われちゃってたけど、ここは人の往来のど真ん中だ、ボーっと突っ立ってるのは確かに良くなかったよね。


 反省する私の手を引いて、ミレイさんは再度歩き出す。

 ただ、向かう先は町の中じゃなくて、門の傍にある小さな建物だった。


「まずは冒険者ギルドであなたの登録をしましょうか。テイマー登録をしないと、従魔を町の中に連れ込めないから」


「そうなんですか?」


 そんな制度があるなんて……ゲームでは特に気にせず中に入れたし、知らなかったな。


 ちょっとびっくりしている私に、ミレイさんは色々と説明してくれた。


 スターツの町の冒険者ギルドは、町の中心近くにあるんだけど……冒険者が狩った魔物の素材なんて、普通は血だらけ肉片だらけですごく不衛生だ。


 冒険者自身も、仕事終わりは返り血やら何やらで汚れ切ってることが多いし、そんな状態で町を闊歩されたら苦情が絶えないから、町の東西南北にある入り口に小さな出張所を作り、素材の受け渡しや簡単なシャワールームを提供してるんだって。


「テイマーの従魔登録もそこでやってくれるから、スターツの町は他と比べてテイマーが活動しやすいって、知り合いのテイマーが言ってたわね」


「へぇ~」


 ってことは、全部の町がこういう制度をしてるわけじゃないんだ。覚えておこう。


 頭の中でそうメモしながらミレイさんについて中に入ると、確かに全身装備の厳つい男達が何人も椅子に座って順番待ちをしていて、その視線が一斉に私達の方へ向けられる。


「ああん? ミレイじゃねえか、なんだそのガキは? お前、いつの間にガキなんて作ったんだ?」


 そんな男の一人が、私達の傍までやって来た。

 ……威圧的でちょっと怖い。


「バカ、森の中で保護したのよ。訳ありっぽいから、ひとまずギルドで身分証だけでもってね」


「ふぅん、相変わらずのお人好しっぷりだなぁ。こんなの明らかな面倒事だろうに」


「だからって放っておけないでしょ。あと、あんたはただでさえヤバい顔してるんだから自重して、この子が怖がってるでしょ」


「…………お、おう、すまん」


 ミレイさんに指摘されると男の人はずーん、と沈んだ雰囲気を纏いながら順番待ちの椅子に戻って行った。

 周囲の男達に慰められている姿が、何とも哀愁を漂わせている。


「ごめんね、あいつアレでも根はいい奴だから、嫌わないであげて」


「はい……えっと、ごめんなさい」


 ちょっと失礼だったかな、と反省しつつ、男の人に向けて頭を下げる。

 そんな私にびっくりしたのか、男の人は目を丸くしながら「いいってことよ!」と少し嬉しそうに声を張り上げた。


 ……そういえば、名前聞いてないや。後で聞いてみようかな。


「ほらマナミ、冒険者登録と従魔登録、やっちゃいましょ」


「え? 並ばなくていいんですか?」


「あれは魔物の解体と査定を待ってる列だから。冒険者登録や従魔登録なんて毎日あるわけじゃないし、すぐに対応して貰えるわ」


 へぇ~、とまた新しい知識に感心しながら、私は受付嬢が待っている受付へ向かう。

 にこりと愛想の良い笑みを向けてくれる受付嬢さんに頭を下げると、「礼儀正しい子ね~」と褒められた。


「冒険者登録と、従魔登録ですよね? こちらにお名前と、使用可能なスキルを記載して頂けますでしょうか」


「はーい」


 代筆も出来ると言われたけど、見たところ日本語で大丈夫そうだからそのまま書いた。


 スキルは……どうしようかな。たくさんあるけど、全部書くのはちょっと大変だし、何より単に驚かれるという次元にならない気がする。


 ここは、ミレイさんに言った通り、四つだけ記載しようかな。


 《テイム》、《調合》、《エール》、《採取》……と。


「どうぞ」


「ありがとうございます。……っ、スキルが四つも? それに、なんて纏まりの良い構成……! 十二歳でこれは、素晴らしい才能ですね!」


「……そうなの?」


 なんでも、複数のスキルを持って生まれたとしても、こんな風に綺麗にシナジーのある組み合わせになっているのはかなり珍しいんだって。


 もちろん、後天的に相性の良いスキルを習得していくことは出来るみたいなんだけど、私は年齢的に四つ全て先天的なものだと思われているみたい。


 うーん、思った以上に私って異常な存在なのかもしれないなぁ。


 ……あれ? でもステータス画面が見れないなら、この世界の人達はどうやって自分のスキルを確認してるんだろう? 何か方法があるのかな?


「おっと、すみません、少し興奮してしまいました。続けて従魔登録をしましょうか、そちらのスライムですよね?」


「はい、お願いします」


 従魔登録って何をするのかなって思ったら、ちゃんとテイムが成功出来ているかどうか……つまり、モンスターの固有スキルを披露すればいいらしい。


 それなら、ということで、私はプルルに頼んで、溜め込んだゴブリンの角を吐き出して貰う。


 ボロボロと、三十個くらいゴブリンの角がカウンターに積み上がるのを見て、受付嬢さんもミレイさんも目を丸くした。


「えっ、ゴブリンの角!? こんなにたくさん……どうしたんですか!?」


「ええと、プルルが倒してくれたんです」


 嘘はついてないよ。《エール》で強化した結果だけど。


「スライムがゴブリンを……? 見たところ、ただのミニスライムに見えますが、特殊個体なんでしょうか……?」


「全然そんな凄そうに見えないけど、分からないものね……」


 カウンターの上で「えっへん」って感じで堂々と鎮座するプルルを、受付嬢さんとミレイさんが仲良くつつく。


 しばらく夢中になってつついた二人は、やがてハッとなって顔を上げる。


「すみません、つい気を取られてしまいました……従魔登録も問題ありませんので、このまま進めておきます。それで、ゴブリンの素材はどうしましょう? こちらで買い取ることも出来ますが……」


「それでお願いします」


 ゴブリンの角なんて大した値段で売れないけど、今の私は無一文だ、ちょっとでもお金は欲しい。


「状態が非常に良いので、買い取り価格にも色を付けられると思います。楽しみにしておいてください」


「ありがとうございます!」

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