第4話 初めてのご飯

 査定が終わるまで、私は冒険者ギルド(出張所)の中で、冒険者の人達と交流した。

 みんな厳ついけど、見た目と違って優しい人ばかりだったなぁ。


「それにしても、マナミはいきなりお金持ちになったわね」


「そうなんですか?」


 巾着袋に入ったお金を眺めながら、私は首を傾げる。


 受付嬢さんが言っていた通り、私の記憶にあるゴブリンの買い取り価格に比べると、ちょっとだけ良いお金をくれた。

 ゲームだと、一つ50ゴールドくらいが相場なところ、55ゴールドだったからね。うん、ちょっとだけ良い。


 ただ、それでも合計で1650ゴールドしかないわけで……ゲームの中では1000万ゴールドとか持っていた身からすると、別に大金ってほどでもない。


「ええ、ゴブリンを三十匹も狩れることなんて滅多にないもの」


 なんでも、今はあの森や街道の周りでものすごくゴブリンが増えていて、危険過ぎるってことで冒険者ギルド名義で警告が出てるくらいなんだって。


 ゲームの感覚でいうと、こんなものかな? って感じだったけど、普通は今の十分の一くらいなんだとか。


 ……これだけ移動に時間がかかって、狩れるのがゴブリン三匹から五匹くらい。

 しかも、普通はここから解体費用が引かれるし、ゴブリンの素材を運ぶにもプルルがいなければ荷車とかを用意しなきゃいけないわけで……一日で150ゴールド程度の儲けなんだって。


 うん、冒険者って全然儲からないね。


「もっと危険な未開拓地で戦う冒険者は儲かるでしょうけど、流石にそれはね~、命がいくつあっても足りないわ」


「冒険者って大変なんですね」


「そうよ。だからマナミは、もっと良い仕事につかないとダメよ」


 年長者の忠告というか、すごく大事なことを教えてくれるミレイさんに感謝しつつ、やっぱり私は生産職だな……と思っていると、ふと近くの屋台から良い匂いが漂って来た。


 ぐぅ、とお腹が鳴ってしまった私を見て、ミレイさんが小さく噴き出す。


「お仕事の話をする前に、まずは腹ごしらえね。奢ってあげる」


「そんな、収入もありましたし、私が出します! ミレイさんにはお世話になりましたし」


「子供が遠慮しないの、今日はお姉さんに任せなさい」


 私の手を引いて、ミレイさんが屋台へ向かう。

 売っていたのは……サンドイッチかな?


 お肉や野菜、それにレモンまで、色んな具材が並んでいて、この場で好きな物を選んで作ってくれるみたい。お値段は一つ3ゴールド。


 ミレイさんに遠慮してたんだけど、いざこれを前にすると食欲が先行して涎が出て来ちゃう。

 何を食べようかな、って迷っていると……ふと、店主のおじさんからすごくニコニコとした笑顔で見られていることに気が付いた。


 うん、ちょっと恥ずかしい。


「妹さんかい? 良い具材を揃えてるから、何でも好きな物を選んでくれよ!」


「妹ってわけじゃないんだけど、ありがとう。おススメはある? ちょっと目移りしちゃって選べないみたいだから、背中を押してあげて」


「任せとけ」


 おじさんが具材を選び、パンで挟んでいく。

 大きなお肉、瑞々しいレタス、トマトを添えた上にレモンを軽く絞って、白いソースを垂らしていた。


 手馴れた様子で出来上がっていくサンドイッチに、私の目はもう釘付けだ。


「ほいよ、お待たせ、お嬢ちゃん」


「あ、ありがとうございます!」


 受け取ったサンドイッチを、私はしばしじっと眺める。


 ……こんな美味しそうなもの、ずっと病気だった私は食べたことがない。

 本当に食べていいのかなって、ついミレイさんの方に目を向けると、早く食べなさいって感じで背中を叩かれた。


 それに押されるように、私は勢いよくサンドイッチにかぶりついて……あまりの美味しさに、そのまま昇天するかと思った。


 涙すら溢れさせながら、しばらく無言でサンドイッチを食べ続ける。

 そんな私を、ミレイさんがそっと撫でてくれた。


「そんなに喜んで貰えると、俺も嬉しいぜ」


「ぐすっ……ありがとうございます……」


 急に泣き出したから、店主のおじさんにも迷惑かけちゃったのに、こうして気遣ってくれる。

 そうしてると、私の肩をプルルがよじ登って来て、ぺしぺしと私の頬を叩き始めた。


「ああ、ごめんね、プルル。プルルもお腹空いてるよね」


 生まれて初めてのまともなご飯に、つい意識が持っていかれちゃってたけど……プルルだって、私にテイムされてからは保存食と薬草くらいしか食べてない。


 テイマーなのに、自分の従魔のことを忘れてたらダメだよねってことで、私は半分くらい食べたサンドイッチをプルルにあげた。


『────!』


「えへへ、美味しいよね、本当に」


 ぷるんぷるんと、私の肩で嬉しそうに跳ねるプルルを撫でて、喜びを分かち合う。

 そうしていると、店主のおじさんは指で目頭を押さえた後、また新しいサンドイッチを作り始めた。


「ほれ、サービスだ。もう一つやるよ」


「えっ、いいんですか?」


「ああ、いいもん見せてくれたお礼だと思ってくれ」


 特に何かを見せたつもりはないんだけど、貰えるものなら貰っておこう。

 お礼を伝えてサンドイッチを受け取った私は、またプルルに少し分けてあげて……残った分を更に分けて、ミレイさんにも差し出した。


「ミレイさん! ミレイさんも一緒に食べましょう、美味しいですよ!」


「ははは、私に気なんて使わなくてもいいのに。けど、ありがとうね」


 ミレイさんも、欲しければ自分の分を買う余裕くらいはあるだろうし、余計なお世話かもしれないけど……この嬉しい気持ちを、少しでも誰かと共有したかったんだ。


「えへへへ」


 自然と零れる笑みのまま、私は誰かと一緒にご飯を食べる幸せを、ゆっくりと噛みしめるのだった。

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