第13話 今後の予定
ララのことを冒険者ギルドに報告しに行って、証拠として目の前で《強制召喚》したら、ちょっと……いや、結構な大騒ぎになっちゃった。
なんでも、ライガルガみたいな危険度Sランクのモンスターをテイム出来る人間なんて、世界中探しても片手で数えられるくらいしかいないんだって。
そんな伝説的なテイマーの一人が、私みたいな子供だと言われれば誰だって驚くよね。
私としては、「そもそもSランクって何?」とか「ライガルガのテイムってそんなに難しいの?」って感じなんだけど。
だってこの子、野生だと50レベルくらいだよ?
とまあ、私と周囲とで認識に大いにギャップがあったんだけど、そこはミレイさんが上手く言い訳してくれた。
なんでも、私は親から捨てられて死にかけていたところを、その“伝説的なテイマー”に拾い育てられ、そのテイマーは何らかの事情で従魔達を私に託して姿を消したんだって。
そんな設定、よく咄嗟に思いつくなぁ。まるで本気でそう思ってるんじゃないかってくらい、真に迫った演技だったよ、ミレイさん。
「流石に疑り深い輩も何人かいたけど、何とか乗り切れたわね。これで一安心よ」
「ありがとうございます、ミレイさん。ミレイさんがいてくれて、本当に助かりました」
「いいのよ、こんなの大したことじゃないから」
それより、とミレイさんは学校の先生みたいに指を立てて言葉を重ねる。
「マナミは、これからどうするかもう決まってるの? 馬車が欲しいって言ってたけど」
「あ、はい! ハイポーション以外にも取り扱える商品を増やして、色んな町を回ってみようと思ってます。そのために、まずは南にある港町を目指そうかなって」
「アクアレーン……漁と農業、それに牧畜まで盛んな美食の街ね」
地図を広げて話す私に、ミレイさんはそう補足を加える。
美食の町、アクアレーン。
港町だから漁師がたくさんいて、魚がたくさん獲れるんだけど……それに加えて、貿易によって珍しい調味料なんかがたくさん集まり、農業や牧畜までやってるため、ここで食べられないものなんてないってくらい、食の宝庫な町だ。
どうしてたった一つの町でそこまで出来るかっていうと、この町には“アクアレーンの守り神”って呼ばれている、一体のモンスターがいるからだ。
遠い昔、“海竜リヴァイアス”っていうモンスターが、アクアレーンの初代町長と同族保護の盟約を交わし、従魔となって巨大なファームを町のために作ってくれたらしい。
畜産や農業の天敵とも言える害獣も害虫もいない、まさに理想的な環境を手に入れたアクアレーンは、元より発達していた漁業と合わせ、美食の町として千年の繁栄を手にした……って、ゲームの解説に書いてあったんだよね。
そんな町で、私は調味料と料理の勉強がしたい。
「ほら、ポーションだと命に関わるアイテムですから、馴染みのないお店からだと買いにくいですけど……食べ物ならそうでもないかなって。それで警戒心を解いて貰えたら、ポーションも売りやすいかな〜、なんて」
「そうね、いいアイデアだと思うわ。ちゃんと考えられて偉いわね」
「えへへ」
ミレイさんに褒められて、つい頬が緩む。
一応はミレイさんの雇い主なんだし、本当は子供扱いを抗議するべきなのかもしれないけど、こういう機会は前世じゃ全くと言っていいほどなかったし……やっぱり、嬉しい。
『────』
「あはは、プルルもアクアレーンの食べ物が楽しみなの? まだこれから出発するところだから、もうしばらくはお預けだよ」
『…………』
食べ物と聞いて嬉しそうに跳ね始めたプルルが、私の一言ででろーん、と形を崩して床に広がる。
明らかにガッカリしていると分かるその姿に、私はミレイさんと顔を見合わせて吹き出した。
「けどマナミ、馬車はかなり高いわよ? 私もある程度蓄えはあるけど、一頭立ての馬車でも届くかどうか……」
「あ、買うのは車体だけですよ。パルパルに牽いて貰うので!」
「パルパル……ええと、あのやたらモコモコしたモンスターかしら」
「はい!」
パルパル……巨大なアルパカみたいな見た目のモンスター、“アルパーン”は、主にその毛を収穫するための生産系モンスターなんだけど、馬の代わりに馬車を牽いて貰うことも出来る。
うちのパルパルはアルパーンの希少個体で、サイズが通常の二倍くらいあるし、三頭立ての馬車だって牽けるんじゃないかな?
まあ、馬がなくても予算が厳しいのは確かだから、あんまり大きな馬車は買えないだろうけど。
「もう何日か滞在して、ポーションを売ってお金を作ったら、なるべく早く出発しようと思います」
「ライガルガの噂が広まると、身動きが取れなくなるかもしれないしね」
ミレイさんの懸念に、私は頷く。
私の目標は、この世界を旅して回って、前世のゲーム内で作った全てのファームと、そこに住んでる私の従魔達を見つけ出すこと。一箇所にじっとしていたくはない。
でも、ライガルガのテイムやハイポーションの調合がそんなに珍しいスキルなら、何とか引き留めようとする人達がいてもおかしくないから。
「分かったわ、その方針で進めましょ」
「ありがとうございます! それでその、ミレイさんのお給金の話なんですけど……」
専属護衛になって欲しいとはお願いしたけど、具体的な相場は全然知らなくて、まだ詳細については詰められていないんだ。
その話題に触れると、ミレイさんは大丈夫だとばかりに首を振る。
「今はまだいいわよ、マナミの事業が落ち着いたらで」
「そんな、ダメですよ! そういうのはちゃんとしないと!」
「うーん……分かった、じゃあこうしましょ。今日から一ヶ月は、私の試用期間ってことで。それが過ぎたら、改めて契約の話をしましょ」
「むぅ〜」
ミレイさん、優しいのはいいけど、いくらなんでも私に甘すぎる気がする。
だけど、生産職は初期資金を作って軌道に乗せるまでが一番大変なのは確かだし……。
「分かりました。じゃあせめて、その一ヶ月間のミレイさんの衣食住のお世話は、私が全部やりますから! それは譲りませんよ!」
「ふふ、分かった分かった。お願いね、マナミ」
「むぅ〜」
ミレイさん、もしかして私のこと、パートナーじゃなくて妹とか娘が出来たみたいに思ってない?
別に嫌ってわけじゃないんだけど、ちょっと納得いかない。
こうなったらせめて、ミレイさんを限界以上に満足させる料理を作って、ちょっとでも私の傍を快適に思って貰おう!
「今晩のご飯、楽しみにしておいてくださいね! 絶対にほっぺた落っことしてあげますから!」
レシピの収集はちょっとサボり気味だったけど、料理スキル自体は持っていたし、従魔のみんなのために熟練度だってかなり上げていたんだ。
リアルでは料理したことないけど、きっと何とかなるはず!
そんな風に思いながら、私は改めて気合いを入れるのだった。
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