第9話 事情説明
ミレイさんと一緒に、まずは宿に戻った。
秘密を打ち明ける決意はしたけど、全部をそのまま話しても理解して貰うのは難しいだろうし、どこからどう説明しようかは正直迷う。
そんな私を急かすでもなく、ただじっと話し始めるのを待ってくれているミレイさんに感謝しつつ……私は、意を決して口を開いた。
「ミレイさん、私……この世界の人間じゃないんです」
そう言って、私はこれまでの人生を掻い摘んで話した。
病気のせいで、親から見離されていたこと。
ゲーム……は言っても伝わらないだろうから、テイムしたモンスター達と長い時間共に過ごした家族だったこと。
そして、ある日突然あの森で倒れていたことを。
「何が起きたか、全然分からなくて……でも、私がこうしてここにいるなら、みんなもこの世界にいるかもしれないと思って……だから……」
「なるほど、つまり……森に現れたライガルガが、マナミのことを育ててくれたモンスターかもしれないってことね?」
「は、はい」
私が育てたんだけど、まあ細かいことはいいかな。
けど、それ以前に……。
「信じて、くれるんですか?」
「え? ああうん……ライガルガくらいのモンスターの中には、自分の暮らしに最適な異空間を作り出して、そこを巣穴にする存在もいるって聞いたから。マナミのいう異世界って、多分それのことよ」
「…………」
それ、多分テイマーがモンスター達を収容しておく
うーん、訂正するべきか……いやでも、そこまで大きく間違ってないし、いいのかな?
「異空間が何かの理由で崩壊して、その拍子にマナミだけあの森に放り出されたんだと思う。モンスターが作り出す異空間には謎が多いから、あり得ない話じゃないわ」
そう言って、ミレイさんは私をそっと抱き締める。
その温かな抱擁に、私はなちゃんにも言えなくなった。
「大事な家族と離れ離れになって、辛かったわね。もう大丈夫よ」
「…………」
モンスター達のことは、家族だと思ってる。それは今も変わらない。
でも、私にお姉ちゃんがいたらこんな感じだったのかなって、そう思ったら……ちょっとだけ涙が出てきた。
そんな私を、ミレイさんがポンポンとあやすように撫でてくれて……ふと、プルルが抗議するようにミレイさんをポコポコと叩いていた。
家族なら僕がいると、そう主張するかのように。
「あら、ごめんなさいね、あなたを忘れてたわけじゃないのよ? ふふ、これからもマナミのことよろしくね」
『────』
任せろ! と言わんばかりに体を逸らして胸を張る(?)プルルに、私とミレイさんは揃って噴き出した。
ひとしきり笑った後、ミレイさんは少し表情を引き締めて話を再開する。
「マナミは、ライガルガに会いに行きたいのよね?」
「……はい。会ってみないと、私の知ってる子だって確証は持てないですけど……十中八九、そうだと思うから」
星のペンダントは、私がゲームで装備させていたアクセサリーだ。
開設できるファームの数が増えてくると管理が大変だから、門番の子にはファームの目印になるアクセサリーを付けておいたんだよね。
すると、ミレイさんは「よし」と大きく頷いた。
「分かったわ、そういうことなら、一緒に森に行きましょう」
「……いいんですか? その、ミレイさんにも、この町のみんなにも迷惑かけちゃったみたいで……その……」
キングゴブリンが街道近くにまで出てきたのは、ライガルガが……あの子が暴れているせいだろう。
ミレイさんの怪我だって、意図したものじゃないにせよあの子のせいには違いない。
そのことで負い目を感じている私に、ミレイさんは「大丈夫」と笑い飛ばした。
「私の怪我はマナミのポーションのお陰ですっかり良くなったし、ゴブリンの件も……まあ、人の往来は制限されちゃってるけど、幸い犠牲者はまだ出ていないわ。早くこの状況を脱するためにも、ライガルガをどうにかしなきゃいけないのは同じだし、マナミにそれが出来るなら、手伝わない手はないでしょ?」
ただし、とミレイさんは指を立てる。
「出発する前に、準備だけはしっかり整えましょう。ライガルガもそうだけど、他にも何があるか分からないからね」
「はい!」
「うん、いい返事ね」
拳を握って気合いを入れる私を、ミレイさんが撫でてくれる。
思わず頬が緩む中、ミレイさんは説明を始めた。
「森の探索に必要な装備は私が用意出来るから、マナミにはポーションを用意して貰える?」
「はい! ……あ、でも、薬草がもうなくて……」
「え、そうなの?」
一つ目のポーションは一緒に作ったから、私がそれなりの量の薬草を持っていたのはミレイさんも知っている。
それはどうしたのかと聞かれて、私はミレイさんが森に行っている間に起こった出来事を伝えて……。
「へえ……そんなことが。へえ〜」
ミレイさんが、にっこりと笑みを浮かべた。
なんだか恐ろしいその表情に怯えていると、ミレイさんは更に口を開いた。
「マナミ、そいつの顔は覚えてる?」
「は、はい、覚えてます……その、どうするの……?」
「そりゃあもちろん、マナミを騙した責任を取って貰わないとね。ぶちのめしてやるわ」
「ミ、ミレイさん、大丈夫ですから! その、こういう言い方もあれですけど……仕返しするだけなら、いつでもいくらでもやれますし」
私があの商人さんに安売りしたのは、無一文でどうしても即金が必要だったからだ。
でも、それは最低限手に入ったし、何よりファームの門番が一体見付かった。
まだ確定じゃないけど、もし私のファームも同じようにこの世界に来ているのなら、ポーション数個分の損失なんて一瞬で補填出来るアイテムが作れるはずだ。
たかが下位の回復ポーション数個のために私の“取引先”から除外されるんだから、仕返しとしては十分じゃないかな?
正直、そこまで恨んでるわけでもないし。私が商売を甘く見てたのは事実だから。
「たっくさん作って、他の人にたっくさん売って、たっくさんお金儲けして、べーってしてやれば十分です! だからミレイさん、今は森に行くことを最優先に考えましょう!」
「分かったわ。……それにしても、マナミ」
「はい、なんですか?」
「意外とえげつないこと考えるのね……見直したわ」
「????」
何がえげつないのかよく分からず、私はこてんと首を傾げるのだった。
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