第10話 従魔との再会

 ミレイさんに頼んで薬草を集めて貰って、改めてポーションを作成。

 それをプルルの《収納》スキルで持って貰った私は、ミレイさんと一緒に森にやって来た。


「マナミ、足元気を付けてね。油断してるとすぐに転んじゃうから」


「はーい」


 ミレイさんに手を引かれながらの森歩きは、なんだか森林浴でもしてるみたいな気分になるよ。


 だけど、ここはミレイさんが大怪我をした場所で……事実、ミレイさんは私への注意喚起以外は、ずっと無言のまま周囲を警戒してる。


 私も気を付けなきゃなと、冒険者登録の時に書かなかった《探知》スキルを使う。


 ……あ、そういえば、持ってるスキルの数も本当はもっと多いんだって、ミレイさんに伝えるの忘れてた。


 まあ、テイム関係と調合関係以外は大したものはないし、別にいいか。


「マナミ、どうかした?」


「えっとね、そっちにモンスターがいるから、気を付けて」


「え……」


 私がそう言うと、薮の中からモンスターが飛び出してきた。


 大きな蜂みたいなそのモンスター……キラービーを見て、ミレイさんは私を庇おうと杖を構える。

 けど、それより早くプルルが飛び出していった。


「《エール》!」


『────』


 パクンッ、と私のスキルで強化されたプルルがキラービーを丸呑みする。


 よーしよし、プルルは良い子だねー、偉いよー。


「そのスライム……プルルだっけ? すごく強いわね、びっくりだわ」


「えへへ、よっぽど強いモンスターでなければ、この子は負けませんよ」


「普通のスライムは、ゴブリンにも勝てないはずなんだけどね……」


「従魔ですからね」


 確かに、野生の……素のステータスしかないスライムならそうだけど、ちゃんと育成すれば、理論上どんなモンスターだろうと野生の個体には一対一で負けることはなくなる。


 もちろん、育成すればって話だから、今のプルルに勝てないモンスターはたくさんいると思うけどね。この森には敵無しだろう。


 たった一体を除いて。


「あ……」


「いたわね。マナミ、静かにね」


 ミレイさんと森の中を進み続けることしばし、ついに私達は、話に聞いていたライガルガを発見した。


 金色の長い鬣、雷の発生器官になっている一対の角、そして……首にかけられた、星のペンダント。


 間違いない、あの子だ。


「ララーー!!」


「あ、マナミ!?」


 私が確信を持って呼び掛けると、ライガルガ……ゲームでは“ララ”と名付けていたその個体が、ぴくりと反応して私の方を向いた。


「ララ、私、マナミだよ。分かる……?」


 私とララの関係は、ゲームの画面越しに一方的に話しかけるだけの、自己満足の繋がりしかなかった。


 たくさんの時間を一緒に過ごして、たくさんのクエストを一緒にこなしたけど……それをララが覚えてくれているかも、そもそも認識してくれていたのかも分からない。


 泣き出しそうなくらいの緊張感の中、じっと反応を待っていると……ララは、ゆっくりと私の方に歩み寄って来て……。


『我が主、マナミ。お待ちしておりました』


 私の前で伏せをして、頭を差し出してきた。

 その瞬間、私は堪えきれずに涙を溢し、ララの顔に抱き着く。


「ララぁ……!! また会えて、良かった……!! 元気だった……?」


『問題ありません。主こそ、元気そうで何よりです』


「ぐすっ……うん、私はもう大丈夫だよ……」


 この世界で目を覚ました時は、もう一度会えたらいいな……くらいに思っていたはずなのに、いざこうして再会したら、感情が全く抑えられなかった。


 やっぱり、私にとっては……この子達が、家族だったんだ。


「マナミ……大丈夫、なの?」


『……何者だ?』


 ミレイさんが後ろから声をかけてきて、ララがぬっと体を起こす。


 いけない、ララはミレイさんのこと分からないんだ。


「ララ、この人はミレイさん、私のことを助けてくれた人だよ。ミレイさん、この子はララ、私の従魔で……家族だよ」


「そう、なんだ……ところで、マナミ。あなた、モンスターと話せるの……?」


「…………」


 言われてみれば、なんで普通に話せてるんだろう。

 ゲームでも、特にそういう設定はなかった気がするんだけどなぁ……実際、ミレイさんはララの声が聞こえてないみたいだし、プルルは私とも話せないし。


「ララって、なんで私とお話できるの?」


『我は主と長い時を共に過ごし、強固な繋がりを得ています故。我自身も大きく成長したことで、この繋がりを軸に意思を伝える術を持っております』


 えーと……要約すると、テイムしてからある程度時間の経った、高レベルのモンスターなら、私と意思疎通が取れる……ってこと、かな?


 大体理解出来たけど、これをミレイさんにどう説明したらいいんだろう。


「えーと、ララがすごいから私とお話出来る、みたいです?」


「そう……なのね」


 若干納得出来ないって感じの顔をするミレイさんだったけど、私もよく分かってないからこれ以上の説明は出来ない。


 どうしよう、って思ってたら、ララが私に頭を擦り付けて来た。


 フサフサの鬣が気持ちいい……ってそうじゃなくて。


「どうしたの?」


『主よ、主と会いたがっていたのは我だけではありません。我が管理を任されたファームで、仲間達が待っておりますので……会って頂けないでしょうか』


「他のみんなもいるの?」


『はい、もちろんです』


 ファームごとこの世界に来ていた上に、ララ以外の子もいると聞いて、私は益々嬉しくなる。


 そのテンションのまま、私はミレイさんの手を取った。


「ミレイさん! このまま、私のファームに案内しますね」


「えっ、ファーム……って、何?」


「ええと、私のお家……ララの巣のことです。ミレイさんの言ってた」


「ああ、そういう……えっ、今から行くの?」


「はい!」


 ララ、お願い! と伝えると、ララはその場で立ち上がり……首のペンダントが、突如眩い輝きを放つ。


『開門。我が主よ、ご帰還を心より歓迎します』


 その光が収まると、ララの前に真っ白な裂け目みたいなのが出現していた。


 間違いなく、ゲームで何度もお世話になったワープポータルだ。ファーム直通のね。


「行きましょう、ミレイさん!」


「う、うん、分かったわ」


 未だ戸惑うミレイさんの手を引いて、私はその裂け目へと飛び込んでいくのだった。

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