第6話 初めてのポーション売り
さて、ミレイさんのお陰でポーションの作成まで漕ぎ付けられたわけだけど、当然それだけで終わるわけにはいかない。
作って、それを売って、初めて私は生産職と言えるんだ。
だから私は、町に来るまでに集めた薬草を全部使って、一晩かけてポーションをたくさん調合した。
その翌朝、ミレイさんが冒険者としてのお仕事に出かけていった後、満を持してポーションをアイテムショップに売りに行き……。
「ポーションを売りたい? ……いらねえよ、他を当たれ」
「えぇぇ!?」
あっさりと断られてしまった。
なんで!? と驚愕する私に、店主さんは呆れ顔で言った。
「お前みたいな子供が持ち込んだポーションなんて、危なっかしくてとても店で扱えねえよ」
「うぐっ」
確かに、ポーションなんて文字通りの生命線だ、万が一にも偽物だったり、想定通りの効果が発揮されないような代物だったら信用に関わる。それこそ、二度と商売が出来なくなるくらい。
だから、得体のしれない私みたいな子供のポーションなんて買い取れない……っていうのは、理屈としては分かる。
分かるけど、それだと私が何も物を売れなくて困るんだよね。
「な、何とかならないですか? 私、これが売れないと生活費が……!!」
「ふぅーむ、そうだなぁ」
私の懇願に、店主さんは顎に手を添えて考え込む。
やがて、ニヤリと笑みを浮かべながら言った。
「なら、特別に100ゴールドで買い取ってやろう。そいつの評判が良ければ、その時は今後正規の値段で買い取ってやるよ」
「う、うーん……」
せっかく作ったのに、ゲームよりも安い買取価格になっちゃうのかぁ……って肩を落としていると、そんな私に店主さんはそっぽを向く。
「嫌なら別にいいんだぜ? こっちも無理に買い取る理由はないからな」
「あわわ、分かりました、それでお願いします!」
「へへ、了解」
というわけで、私は一晩かけて作ったポーションを、考えていたよりずっと安い値段で売ることになってしまった。
ポーション十個もあったのに、利益としてはゴブリンの角三十個よりも安い。とほほ。
「う〜、商売って難しいね、プルル」
『────』
肩を落とす私を、プルルはその体でぺしぺしと叩いて励ましてくれる。
ありがとう、と撫でながら、しばらく歩いていると……。
「お? 昨日の嬢ちゃんじゃねえか。どうした、そんなに落ち込んで」
「あ……おじさん」
私に声をかけてくれたのは、昨日サンドイッチをサービスしてくれた、屋台のおじさんだった。
ちょっとモヤモヤしているのも事実なので、私はついさっきあったことを素直に話すと……おじさんは、信じられないとばかりに憤慨する。
「こんな小さな子供を騙すとは、なんて野郎だ!! 許せん!!」
「え、騙す……?」
「そいつは、嬢ちゃんの作ったポーションがちゃんとした代物だって分かってたんだろう。もし本当に信用出来ないと思ってたなら、格安でだって買い取らねえよ」
「えぇぇ!?」
おじさん曰く、信用出来ない云々は、私からポーションを安く買い叩くための方便だろうとのこと。
上手いこと口車に乗せられてしまっていたと知って、私は更にがっくりと肩を落とした。
「あの姉ちゃんはどうしたんだ? 一緒じゃなかったのか?」
「今は冒険者のお仕事に行っていて……それに、私もいつまでもミレイさんのお世話になるわけにもいかないですから」
「というと?」
首を傾げるおじさんに、私は森でミレイさんに拾われた子供だということを掻い摘んで説明する。
だから、自分の力でちゃんと稼いで自立しないといけないんだ、と。
「それに……家族がいるのかどうかも分からないですけど、探しに行くことを諦めたくもないですから」
ミレイさんはこの町の冒険者だ。家族を……ゲームでいっしょにこの世界を冒険した従魔のみんなを探すっていう目的を考えたら、ずっとこの町にいるわけにもいかない。
と、そこまで話したところで、おじさんはぶわっ、と泣き出してしまった。
「そうか……嬢ちゃん、そんな事情があったんだな……! しかも、そんな境遇なのに、家族がいることを信じて……!」
「え、ええと……」
ここまで過剰反応されると、“家族”と言っても肉親じゃないとは言いづらい。
なんて声をかけたらいいか分からなくて戸惑っていると、おじさんは私の肩をポンポンと優しく叩いた。
「お嬢ちゃんの気持ちは分かった。だがな、このご時世に子供の一人旅なんて無理だ。やるなら、信頼出来る大人が味方にいねえと、簡単に食いものにされちまう。今回みたいにな」
「うっ……」
おじさんの言う通りだ。
私はゲームで育て上げた“マナミ”の力を持って転生したけど、中身は世間知らずの十二歳……ゲームと似てはいても全然違う、ちゃんと生きた人間が暮らしているこの世界でやっていくには、保護者は必要だろう。
「あの姉ちゃんは冒険者なんだろ? 元々この町の住人ってわけでもなさそうだし、一度話してみたらどうだ?」
「ふえ? そ、そうなんですか?」
絶対この町の人だと思ってた……。
でもよく考えてみたら、おじさんは冗談でもなんでもなく、私のことをミレイさんの妹だと思ったみたいだったし、町に定住してるならそんなことにはならない、かな?
ここ、あまり広い町ってわけでもないし。
「……分かりました、ミレイさんが戻ったら、相談してみます。ありがとうございました!」
「おう! いいってことよ! ……あ、そうだ、もう一つ言っとかなきゃな」
「はい?」
「お前さんがポーションを売ったって店な、どこのどいつか知らねえが、そういう奴は一度味をしめたら同じことを繰り返す。今度は向こうから話し掛けて来るかもしれねえし、気を付けな」
「はい、分かりました!」
最後の最後まで親切なおじさんにお礼を言って頭を下げた私は、宿に戻ってミレイさんの帰りを待つことにした。
どうなるかは分からないけど……少なくとも、今の私にとって一番信用出来るミレイさんに、今後のことを相談するために。
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