第38話

「これで、三つの魔力が同じということは証明されたということにしておきましょうか。微々たるものもありましたけど、どうせコンマいくつかの違いですので考えるだけ面倒です」


 ファイルを読みながらカルミアは、そっと視線を机の上に並べられている臓器たちに向けられていたがすぐに興味も薄れてしまったのか視線を手元にあるファイルへと戻してしまう。


「このファイルは、あの地下にあったのですが、軽く事前に読んではいましたけど、いま改めて真剣に読んでみると被験者リストのようですね。このファイルの中から革命時の貴族をピックアップしていきましょう。マリア王妃とルーチェ王のご家族を発見した時には教えてください」

「なんともまぁ、アナログチックな調べ方だな。スキャンして機械に任せちまえばいいものを。あと、俺はこの代筆が終わってからする」


 クフェアは視線で置かれたファイルを見たが、現在はカルミアに頼まれて代筆中なのだ。彼女は、自分で頼んでいたのにも関わらず半分忘れてしまっていたのか「あぁ」と告げてから頷いて自身でファイルを開いて先ほど言ったものを探すことにする。


「では、代筆が終わってからお願いしますね。ちなみに、さっきの話なのですが。それも考えたんですけどね。一部、魔力が籠っているページとかがあるので地味に解呪していかないとダメみたいで。なら、もう全て手作業でアナログ式確認方法を取っていこうかって思いましてね」


 ポキリ、と首を鳴らしては異常な速度で解呪をしながら確認をしていくカルミア。

 クフェアは代筆が終わったのか、しっかりと封をして彼女に言われた場所に手紙を送り込んで一つの仕事を終えたのか机の上に置かれていたファイルのも手を伸ばして確認をし始める。

 ふと数ページ捲っていると、何かを思い出したのかクフェアは鞄の中に無造作に一冊の日記のことを思い出して手に持っていたファイルを机の上に戻して日記をと出す。


「……お嬢さんは、そっちのリストの確認を続けてくれ。俺は、修道院で手に入れた鍵のかかった棚の中に綺麗に仕舞い込まれた日記の確認をさせてもらう」

「あの修道院に日記……? ちなみに、鍵のかかったと言っていましたが。どのような魔術で封印されていたんですか?」


 質問をしていながらもクフェアを見ることはせずに、視線は変わらずにファイルに向けられているし手も止まることはない。

 クフェアは欠伸をしながらも、目線を日記から逸らすことはなくまた手を止めることもなく。その時のことを思い出しながらカルミアへの質問へと答える。


「今時、子供でも解呪できるようなもんを何重にもかけられていたよ。……ガキが施したのかと思ったが、まぁ。百年以上前の連中が掛けたのであれば、その時代からしてみればかなり高度な魔術だったのかもな」


 ページを捲っていた手を、ピタリと止めてゆっくりと息をつく。

 彼が何故、そのように結論づけたのか。それは、日記の中身に書かれていることから推測したまでに過ぎない。とあるページを開いたまま、クフェアはゆっくりとカルミアに見せるように机の上に日記を開いたまま置いた。

 そっとファイルを確認していた手を止めて、目線を机の上に置かれた日記へと移動する。


「……確かに、クフェアさんの言う通りなのでしょうね。そもそも、こんな……。聖堂騎士団が使用していた時のものが隠されていただなんて、皇帝も思いもしなかったでしょうね。面倒な悪というものは、意外と引っこ抜けば思っているよりも根は深いものであることが多いですが。今回も、そのようですね」


 日記を読み進めていると日付が書かれているところがあり、その日付を確認するとクフェアの推測通りに今から百年以上も前のもであることがわかる。内容は、最近周囲から悲鳴や人の声とは思えない何かおぞましい声や気配が夜になるとするというものばかりだ。


「この書いているやつは、俺たちが見つけたあの地下ってことか」

「実験は昔から行われていたのであろうということは分かっていましたが、まさかのまさかですね」


 中には日記の主の感情や、ここ最近の財政状況。

 当時、このエスピアを統治していた皇帝が騎士団への弾圧を行うようだ、という噂のようなものも書かれている。最後のページには、日記の主は何かを感じ取ったのか『自分もこうなる運命であったのかもしれない』と、もう一つの言葉が記載されて終わっている。


「後世にて、聖堂騎士団の無実が証明され。この国の罪が贖われることがあるように、か」

「実際、十数年前に聖堂騎士団が行ったとされている金銭関係の問題は無実でありでっちあげだったと証明されています。なので、この前者はさておき。この国の罪が贖われることがあるように、ですか」


 エスピアは、別名『贖罪の国』として言われている。

 だが、ここに住んでいる者たちでさえも何故自身の国がそう言われているのかの所以を知らないだろう。


「なぁ、これは純粋な疑問なんだが良いか?」

「私に答えられるものであれば回答しますよ」

「別に回答されるかは期待していない。……どうしてエスピアは贖罪の国とされているんだ? 一体、何の罪を贖えって言うんだ。いや、今回見つかったものがそうなんだろうが」

「それについては私もなんとも。だからこそ、記録者にそれらの書類を申請してもらったというわけです。なので、そこは追々考えていきましょう。それにしても、日記に書かれている悲鳴やおぞましい声に気配、というのはこれのことを言っているのでしょうね」


 カルミアは机の上に置かれている培養液とよく分からない物が入っている容器を軽くこつきながら笑顔で告げている。

 クフェアも彼女と同じことを少なくとも思っていたのか、軽く同意をするように首を縦に頷いている。彼はそのまま、日記をカルミアに預けてから机の上のファイルに手を伸ばして確認を始めている。この国については、いったん置いておくことにしたのだろう。


「でも、この時代から既に研究がおこなわれていたことは分かりましたが。どうやって皇帝たちは、研究を見つけたのでしょうかね。聖堂騎士団の者は、無実の罪で皆離島にて火刑にされていたはずです。逃げ延びた人が居たかもしれないし、関係者が代々口頭でって考えるのも不思議な事ではありませんし。何か些細なきっかけ……それもそういうことを望んでいる術師から吹き込まれたなどと様々なことは考えられますけどね」

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