第39話

「それって……。つまるところ、何かが分かったようでその実は何も分かっていないということじゃねぇか」

「まぁ、そうとも言えますけど。……やっぱり皇帝謁見はしたほうがいいかもしれないですね。一番それが手っ取り早いような気がしてみました。一番避けたい方法ではあるんですけどね」


 ぐだ、と容器などを綺麗に片づけて机の上を綺麗にしては突っ伏すカルミア。

 正直なところ、言ってしまえばカルミアとクフェアは既に皇帝謁見が難しいところまで様々なことをやらかしてしまっているのだ。到底、そう簡単に謁見が出来るわけもないだろう。

 クフェアの王族という特権を使用すれば、望みがわずかにあるかもしれないがカルミアにはそれを使用するという考えは毛頭存在していない。自身の目的のためであれば、様々なものを利用することも厭わない彼女であるがそれでも利用しないものがある。


「頑なに俺を使うことはしないんだな」

「……当たり前でしょう。王族の手を借りなくとも、基本的にはどうにでも出来ます。あぁ、いっそうのこと使用人と志願してみますかね。私とクフェアさんの設定は、姉弟ということにしてみますか。二人で一つみたいな設定で行きましょう。あ、これは面白い予感」

「俺には波乱の予感しか感じねぇんだが」

「そうと決まれば、変身薬です。変身魔法でも良いんですが、薬のほうが突然魔法が切れるなどの心配がないでしょうし。え、凄くやる気が出てきた」

「お嬢さんは人の話を聞くところから始めたらどうだ」


 カルミアは、自身で言っておきながらファイルから主要人物を探すことに早くも飽きてしまったのかファイルをベッドに放り投げてしまっている。意識は完全に、皇帝のいる場所に潜入するという考えに変更されており鼻歌交じりで試験管やフラスコを準備していく。

 挙句には、小さな簡易窯、薬草なども取り出して本格的に変身薬の調合を始める始末。

 こうなってしまった彼女を止める術は、残念ながらクフェアにはない。


「使用人として中に潜入するとしても、募集とかが行われてねぇと門前払いは確定だぞ。さらに、認められたとしても身分や出身を証明する必要も出てくる。お嬢さんが思っているよりも、面倒な手続きも多い。皇帝の屋敷の使用人ならなおさらだろう」


 王族であるが故に、使用人を雇う際のことを理解しているのだろう。

 もし、使用人として働くことを許可されたところで二人は姿を偽って潜入することになるので身分などを証明することが面倒になる。だらかと言って、実際の姿で行けば確実に門前払いになるか中へ入ることも許可されたところで秘密裏に消されることは確定している。

 それで消されるほど、二人は弱くもないのだが。


「あぁ……そういえば、そうですね。手続きに関しては、避けて通れない悲しき道でもありますよね。偽造すればいいんですけど、時間が足りないですし。念のため、認識阻害の魔術も盛り込んでおきますかね。正直な話、私の魔術などを看破出来る優秀な人物はそうそういないでしょうし」


 ――慢心していると痛い目に遭うのが鉄則だが、黙っておくか。


 クフェアは、内心で面倒なことが起こりそうなものを感じつつもあえて言うことはしない。言ったところで、カルミアの暴走に近いこれが止まることもないだろう。ましては、バレてしまえば拳で物を言わせるような作戦に変更されるだけだ。

 錬金術師と名乗っておきながら、彼女の考えはどちらかというと武人に近い。

 拳で戦い、勝った方が勝者、という考え方なのだ。


「もっと術者らしくしてほしいもんだな……」

「それでは面白くないでしょう。危険には自ら身を投じるのが一番楽しくなる秘訣です。長年も生きていると、ちょっとでは靡かないんですよ」


 すりすりと、ばちで薬草を潰しながらクフェアの独り言に反応をしては言葉を返す。


 「俺はお嬢さんほど生きていないから、なんとも言えねぇが……。確かに、退屈なのは一生の敵だ」

「そういうことですよ。私の友人の一人にね、殺しが嫌いな子がいるんですよ。私とは本当にびっくりするほど正反対。でも、彼女なりの楽しみがあってそれで生きているのですからやっぱり楽しさは必要ということですよ」


 当然、彼女には様々な交友関係があることはクフェアも理解している。

 それでも、彼女の口からはっきりと「友人」と言って出てくる交友関係は少ないのだ。分かってはいながらも、何処か理解できない何かがあるのだろう。


「つまらないならば殺してしまえば良い、という私の方針とは本当に違うので今でもどうして交友関係が続いているのか私でも謎なんですよね。いや、正反対だからこそ続いているのかも」


 あまりにも横暴すぎる方針を聞いて、思わず頭を抱えてしまいそうになるのを必死で抑えて苦笑一つで収めるクフェア。それと同時に、なんとも彼女らしいなとも思ってしまうのだからこの数か月でクフェアなりに彼女の人となりを理解してきているのかもしれない。


「お嬢さん」

「なんでしょうか?」

「マリア王妃とルーチェ王の名前を見つけたぞ」

「おお、それは上出来です。ちなみにですが、名前の他に何か書かれていますか? 例えば投与したものとか。観察とか、レポート的なものがあれば読み上げてほしいです」


 先ほどまでクフェアが代筆のために使っていた硝子ペンを杖代わりにして、フラスコの縁に数回コツコツと当てるとガラスペンからぽとぽとと水が湧き出ては確かにフラスコ内に水が溜まっていく。同時に、火もつけてフラスコ内の水を沸騰させることも忘れない。

 それと同時進行で、粉々にされた薬草を集めては思ったよりも早く沸騰し水からお湯に変わった液体が入っているフラスコの中に入れてはゆっくりと慎重に混ぜる。


「レポート的な、か……。他のファイルにはあるかもしれねぇから、探してみる。あくまでもこれは、名簿しかなかったからな」

「お願いしますね。それにしても、そのファイルに名前があったということは……。あまり、サリュストル先生や彼のおじい様にはあまり報告はしたくありませんね。ほら、だって。……信じていたそれを裏切ることになることだけは、したくないじゃないですか」


 カルミアは、ゆっくりと目を伏せて言葉を紡いでいく。

 その言葉は、誰かに宛てたものなのかはクフェアには見当もつかない。もしかすると誰ではなくて、自分につけている言葉なのかもしれないが真意は不明だ。


「信じているものを裏切る、ねぇ」

「それほど、空しいものはないでしょうからね、きっと」


 ぐつぐつと泡が出ているのを確認しては、試験に入っている液体をゆっくりと入れて追加で混ぜていく。

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