第47話
サリュストルと別れてクフェアと歩きロビーまでやってきたカルミアは、何を思ったのか目の前に居たクフェアの頭を撫でている。その様子だけを見ると、仲の良い姉弟のように見えることだろう。実際は、姉弟でもなければただの雇い主と従業員なだけである。
「クフェアさん、その姿であればどこまでできますか」
「どこまでって……」
「気づいているか分からないですが。子供の姿相応に制限を掛けています。思考が少しだけ子供っぽいのは、その影響ですよ。思考に関しては、薄々分かっているかもしれませんね。魔力も制限を掛けていますので、普段のように行えませんよ」
カルミアに言われて、自身の手を見つめて今の自身の身体に巡っている魔力に集中する。静かに、目を閉じて数秒後に嫌そうな表情をして目を開ける。彼女の言う通り、自身の中を巡っている魔力の分量の違いをすぐさま理解したのだろう。
頭を掻きながら、面倒そうに話し出す姿は子供とは到底思えない哀愁さが漂っている。
「おいおい……。武器も何も、俺は持ってねぇぞ」
「その点はお任せください。何も考えずに、私が調整するわけじゃないですか。私のことを誰だと思っているんです。あのカルミア・ル・フェと名高き錬金術ですよ? 今回、錬金術師らしいことを一切していませんけどね」
クフェアは、その言葉に対して呆れた表情をするだけで特に何か突っ込むことはない。もし、この場にルピナスが居れば彼女の言動に対して多少の突込みが入ったことだろう。
カルミアは、斜め掛けをしている鞄の中から拳銃と何か液体が入った小瓶を数個クフェアに手渡す。勿論、彼女は部屋に戻るつもりはなかったのか用意していた鞄もセットで彼に渡す。訝し気に、渡された小瓶を見るクフェア。その瞳は、この世の全てを信じないといったような疑心に満ちている。
「その小瓶に入っている液体を飲めば、一定時間で流した血を武器にすることが出来ません。貧血を起こすことはないので大丈夫ですが、同時に痛覚が消えます。まぁ、イメージ的には魔力増幅剤みたいな感じですかね」
「……なるほどな。確かに、下手に武器を盛り込むよりはマシだろうな。拳銃程度であれば、護衛で持っている者も多い。それに、どうせお嬢さんのことだ。案内される際に武器は提出するだろうからっていうのもあるんだろう。アンタにとって、この拳銃はカモフラージュみたいなもんか」
「え、あ、ああ。はい、そういうことです」
――これは、そんなこと一切思っていなかった奴だな。
カルミアはそっと静かに目をそらしては、口笛を吹きながら笑顔で同意した。クフェアの思考通り、カルミアは別にそのようなことを思って渡したわけではない。ただ、単純に何かあったときのために子供でも扱いが難しくないであろうカスタマイズされた拳銃を私だけに過ぎないのだ。
今さら、そのようなことを言うに言えるわけもなく言葉を濁す程度に終わらすカルミア。しかし、あまりにも程度に出過ぎていることもあり勘の良いクフェアは分かってしまったのだが。分かりつつも何も言わずに、そういうことにしておくのは彼なりの優しさなのだろう。
「飲む際には何か怪しまれないようにしてくださいね。何か言われそうなら、持病持ちで定期的に薬を飲まなければいけないとかでも言っておけばいいですよ」
「そんな単純なことで納得するのかよ」
「私たちは姿が違いますが代理ですからね。本来の私たちの姿であれば、怪しまれる可能性が高そうですけど」
いつもと違う姿で、本調子が出ないのかカルミアは首に手を添えて軽く音を鳴らしている。ふぁあ、と欠伸をしながらそっと鞄の中から皇帝から送られてきた手紙を手にしては訝し気に見つめる。
ふと何かを思い出したのか、隣で見ているクフェアに話しかける。
「そういえば。何か、オフェリアからこの手紙についての解析結果とかありましたか?」
「ああ。お嬢さんが俺の借りている部屋に懐中時計を忘れてきたから、それで伝言を預かっている。特に最新の情報はなかったがな。……ただ、手紙から高濃度のエーテルを検出したっていうくらいだ」
「うぅん……。あのオフェリアが、それだけの報告しかないなんてことあるはずないんですけど。それだけ解析に難航しているということなのでしょうか?」
手元にある手紙を意味ありげに微笑んでは告げる。
ゆっくりと手紙を見つめてから、何かを思いついたように口角を上げるが視界に入った時計で時間を確認をしてそれをするには時間があまりにもないことに気づいて軽く舌打ちをしてから、手紙を鞄にしまい込む。
その一連の姿を見ていたクフェアは首を傾げる。
「理の天秤にかけてみようと思ったんです。反対側に乗せるものは特に気にしていませんでしたが、どのような結果になるのか興味があったもので」
「……罪の欠片や高濃度エーテルに匹敵するもんを持ってるのか?」
「……匹敵するか、分からないんですけど。妖精王の眼球なら」
「何で持っているのか、あえて聞かねぇが」
「ちょっと昔、妖精王と喧嘩してしまって。あまりにも腹が立ったので、妖精妃の力添えを貰って片方の眼球を抉ったんですよ、スプーンで」
「スプーンの正しい使い方を今一度習ってこい。あと言わなくても良い、そんなこと」
お茶目に舌を出して笑っているカルミア。
余談であるが、妖精というものは性質上の問題で死という概念が基本的に存在しない。故に、消えたとしても再び構築されて同じものが形成される。前回までの記憶は記録として引き継がれるので、全くの同一人物というわけではないのだがほぼ同一人物と思っても差支えがない。
カルミアは、半分妖精の血が流れているが人間でもあるので死という概念は存在しているが妖精特有に死んでも記憶が記録として引き継がれることは出来る。しかし、実際に死んだことがないので、そうであるという確信はない。
「まぁ、私のスプーンの使い方はさておき。言うまでもないと思いますけどね。カトラリーというものは、時に武器として使用できますので頭の片隅にでも置いておくことをお勧めします。さて、戯言はここまで。クフェアさん、これを飲んでください」
ひとしきり笑って満足したのか、カルミアはまるで宝石のような小さな欠片をクフェアに手渡した。そっと手のひらに乗せられた錠剤のような宝石とカルミアを交互に見てから、何か嫌な予感を覚えたのか明らかに眉をひそめて表情を歪めてしまう。
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