第14話

「見た目は若いですが、この男は老人ですし。若返りの薬とかの類でしょうか。あれらは王族関係者しか手に入れることができないんですけど……。まぁ、つまるところ何か情報を知っていそうなので脳みそを取り出して記憶を確認しようと思った次第ですね」

「……ちょっと待ってください。チェイルジュリに、突撃した!? それに、どうしてその青年が老人であると断言できるのです!?」


 カルミアの発言を最後まで聞いたサリュストルの感想は、驚きと質問だけだった。

 様々なことがあれども、まずは監獄であるチェイルジュリに立ち寄ったということ。そして、その中でこの国では製造禁止かつ運用禁止とされているホムンクルスに襲われたという事実。最後には、どう見ても青年であるのに老人であると断言することが出来るその根拠はなんなのか。

 彼の言いたいことはクフェアでも伝わったのか、同意するように深く首を縦に動かしている。


「全てを事前に話してネタバラシをするのは面白くないでしょう?」

「それで被害を受けることになる側のことも考えろ。……どうせ、説明する必要はあるんだ。なら、今しちまった方がいいだろう」

「面白いことが一番ですけどね、世の中。ですが、まぁ、良いでしょう。では軽く報告も兼ねて情報共有ということにします。ソファお借りしますね。クフェアさん、その男は床に転がしてくれていいですよ。ソファだなんて勿体ない」


 一言告げては、サリュストルの執務机の目の前にあった長椅子に腰を掛けては足を組んでそっと手を添えて話し出すカルミア。クフェアも彼女の隣に座っており、言われたとおりに担いでいた男は床に転がしている。


「チェイルジュリへ赴いたのは先ほど言ったので良いでしょう。どうやら、監獄に居る一部の連中は私を捕まえたら有名になれるみたいな感じを持っているのか一斉に囲んできて。昔よりましになったんですけど、まだまだ狙われているのは現役ですね。……ああ、大丈夫ですよ。私とクフェアさんはこの通り無傷ですし、生身の人間に関しては魔力を死ぬギリギリまで貰って気絶させただけですから。ホムンクルスに関してはズタズタにさせてもらいましたけど」

「当たり前ですよ……。監獄内で大量殺人だなんて、正直笑えないですし一面飾りますよ。それにしても、ホムンクルスですか。我が国では製造および運用は禁止されていたはずなのですが、ね」


 彼女の言葉に対して、冷静そうな。それでいて、何処か呆れた声色をして言葉を紡ぐサリュストル。国の中で問題というものは、見えないところで蝕み続けているのだ。彼が把握していないだけで、きっとこの国は彼が思っているよりも多くの問題を抱えている。その問題の一つをいとも簡単に暴いて怖そうとするのだから、彼女の身勝手さには手に負えない。

 カルミアの人となりを知っているサリュストルであるからこそ、このような反応と対応で終わっているが彼女に初めて依頼をする人となりを知らない依頼人であれば余計なことを行ったことに対して怒鳴っていたに違いない。その反応に対して、カルミアが杖を振るうということも想像に難くないだろう。


「ちなみに、あの男が青年ではなく老人であることについてですが。これは、私の目の問題です」

「カルミア殿の、目の問題ですか?」

「ええ。私の目は、妖精の瞳といって真偽を見抜くことが出来ます。難しいんですが、それは姿などの言動以外でも見ることはできます。ちょっとコツが必要なので初見でわかるには難しいんですが。……それを理解してからは、老人にしか見えないということです。今はもう、姿を現すことは少なくなった妖精や精霊ですし彼らがこの瞳を持っているのも少ないので結構貴重だったり」


 そっとかけていた眼鏡を取っては、その美しい目をサリュストルの前に見せる。

 その瞳はどのような宝石よりも美しく輝いており、光の反射により色を自在に変えては特定の色を持たない。遥か昔の妖精たちのほとんどが所持していたとされている「妖精の瞳」は今では昔の素材としての乱獲などもあり持っている方が貴重であると言われてしまうほどにその瞳を所有する妖精は少ない。

 事実、その瞳を持っているカルミアでさえ自身の視力がなくなりこの瞳が使い物にならなくなった時には素材にして何か錬金しようと考えているほどである。


「なるほど。そうだったんですね。……ですが、あのチェイルジュリ内でホムンクルスに襲われたということは思っていたよりもさまざまなものが複雑に絡んで一筋縄ではいかないようですね。少しだけ、嫌な予感さえも感じています」

「おや。案外すぐに私の話を信じてくださり、ちょっと驚いています。ですが、こちらとしては信用に値すると思われているようでなんだか気分がいいですね。ところで、これは仮の話ですが。もしも、この一件に関わらず面倒ごとの裏に皇帝が関与している場合は、どうするんですか。もしも関わっていれば、それ相当の事柄が公になることでしょうし下手をすれば死刑、なんてこともあり得る話です」


 その口ぶりや雰囲気は、まるで何かを試すようなものを含んでいる。

 目の前にいる処刑人は、まだ処刑人になって長いとは言えないほどの時間しか経っていない。罪人を処刑している、ということには変わりはないのだがそれでも貴族や、皇族、ましては皇帝といった名のある肩書を持つものたちを相手にしたことはなかった。彼からしてみれば、それは決まった仕事であり処刑をするものに関してはどのような階級でも等しく罪人、否。

 処刑台にかけられたもの、でしかないのかもしれない。

 それでもどこか意地の悪い表情と声色で、カルミアは告げるのだ。


「ふふ。……カルミア殿は、やはり意地が悪い」

「おや? それは褒め言葉として、受け取っておきましょうか」

「私は、処刑人ですよ。処刑されるものが、皇族でも貴族でも。ましては、皇帝であったとしても。処刑が必要であれば処します。それだけです」

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