第31話
いよいよ本格的に怪しい雰囲気が出てきたのか、カルミアをここで待って合流してから地下の捜索をするべきなのかと考えた結果、彼女がここまで無事来るまでには時間がかかりそうだと結論で受けて先に肩に止まった小鳥と共に捜索することにしたのだろう。
警戒をしながらも、それでいて何処か堂々とした雰囲気で階段を下っていく。
あまりの暗さから、クフェアは鞄の中に入っていたカンデラを取り出しては炎を魔術で灯してしっかりとした足取りで前へと進んでいく。血かであることも相まってか、何処か陰鬱としておりジメジメとした雰囲気が見え隠れしている。
――これで、本気で地下とかで実験なんぞしていたら、笑えねぇぞ。
面倒そうに。少しだけ呆れたようにため息をついてしまったクフェアをなだめるようにして、肩に止まっていた小鳥が「ぴぃ」と鳴いた。
彼が地下への道を見つけて、小鳥と進んでいる一方。
カルミアは、援軍としてやってきた軍人を含めて約三十人近くの軍人と彼女が作り出した箱庭の中で壮絶な戦闘を繰り広げていた。
「んぅ。まるで、潰しても潰しても湧いて出てくる虫のよう。貴方たち、本当に人間ですか?」
ここに来るまでに殺すことになった三人は、カルミアから見ても明らかに人間であったことは確認できている。
腕を斬り落とされて絶命し、そのまま動かぬ肉塊になったことをこの目で確認しているからだ。しかし、この箱庭の中に居る軍人は急所を狙って殺せども何故か再び何食わぬ顔で立ち上がって武器を構えてやってくる。人間の見た目をしてはいても、異質な存在であることには間違いないだろう。
――構造上は人間。と、なると内部の何処かが人間ではないのかもしれない。解体してみないとこればかりは分からないな。心臓を潰しても、脳を潰しても死なないとなると別の何処かに掻くが存在しているはず。ああ、真偽しか見えない目が、もどかしいな。
深く息を吸い込んでは、踏み込んでは軍人の懐に入り込んで隠し持っていたナイフで首元の血管を標的にして思い切り腕を振り上げる。刹那、切れた血管から壊れたホースのように血しぶきが噴き出てはカルミアの頬を濡らし、桃色の髪の毛が赤に染まっていく。
「人間であるか、そうでないか。今、この場において重要なことかね?」
「私的にはどっちでも良いんですけど、単純に気になりまして。まぁ、興味ですよ、興味。好奇心旺盛なことは、良いことですから」
軍人により突き出された槍を、いとも簡単に身体をそらして避けては襲われそうになった刹那近くに居た軍人の腕を力の限り掴んで引き寄せて盾替わりにし、攻撃から身を守る。
彼女に盾にされた軍人は、身体を槍に貫かれてそのまま内部で破裂音がしたかと思えば絶命したのかピクリと動くことがなく地面に倒れ伏している。武器に何か術が掛けられているのか、もしくは彼らが内部的に何か術が掛けられており術がぶつかり合って何かが破裂したのか。
「私的には、その武器には何か魔術が施されていて。そして、魔術が施されている者をその武器で貫くと魔術が反発しあって結果絶命するのではないかと予測していますが。どうでしょうか?」
彼女に襲い掛かってくるものは何も槍の突き攻撃だけではない。
高台に居る軍人からは、矢の雨を受けているし矢だけではなく時折鉛玉の雨も降っている。何処かに逃げて隠れようものならば、地上に居る剣を持った兵士たちに斬撃を受ける可能性だってある。
言ってしまえば、このままではカルミアの不利でしかみえない。
それでも弱音を言うことは一つもせずに、この不利でしかない状況でさえも楽しむカルミア。彼女にとっては、絶対的なピンチの中でさえ楽しみを見出す。ある種の狂人じみた本能が表に出ている状態なのだろう。
「一気に畳みかけろ! 遠慮はいらない!!」
「ふむ。……それは、正解ということですね」
彼女の問いに対して、明確な回答が返ってくることはなかったが代わりに一斉にカルミアへ攻撃をするように指示が出て向かってくる切っ先、銃弾。それは言葉はなくとも、ある意味で正解であると告げているようなものである。
手の内がばれてしまったのであれば、早々に潰してしまえば良い。
本当に、革命時に活躍をした軍人なのかと首を傾げてしまうほどに蛮族で、カルミアからしてみれば愚かな集団にしか思えなかった。最も、三千年近くを悠々と過ごしていた彼女からしてみれば、どのような者も愚かに映ってしまうことがあるのかもしれない。
「……おや、あちらも進展があったようですね。では、こちらもさっさと片して合流するとしましょうか。私も一度、見てみたかったんですよねぇ。人体実験の現場ってやつを、生でね」
周囲を一瞥しては、口角を上げる。
その行動は、何処かわざとらしく。相手を挑発していると言われても頷けてしまうほどの行動だ。一斉に自身に向けってきていることを分かっている彼女は、この場で一気に終わらせるつもりなのだろう。多くの軍人が自身に向かって走ってくる。
向けられた切っ先などを見る限り、この場所に留まれば串刺しになることだろう。
「チェックメイト、……なんてね」
指を鳴らす。
刹那カルミアは、まるで液体のようにドロリと溶けてその場から消える。彼女が消えたところで、全力で走ってきていた兵士たちは今さら足を止めることはできない。結果、彼らはお互いを刺し殺しては爆発を起こして消えていく。
残念なことに、この方法で一掃することが出来たのはあくまでも地上に居た軍人のみだ。
「おっと……。一瞬の目くらましからの、転移は中々に骨が折れますね。私的にはもっと、綺麗に演出をしたいところなんですけど。まぁ、そうも言ってられませんね。ああ、あなた方も消えてもらいますので大丈夫です。私がここから出て、これをボンッとすればすべてが終わるので、ね?」
高台に居る兵士たちを視界に入れては、ニコリと微笑み彼女は再び指を鳴らす。それを合図にカルミア自身を光が包んでは、その場から消え去った。
次に目を開けた時。
彼女は、クフェアが見つけたとされる地下へと続く場所に小さな箱のようなものを手にして立っていた。片手に持っている黒い小さな箱を一瞥してから、片方の手で炎を出して豪快に箱を握りつぶしてから灰にしてしまう。
物理的に攻撃を加えても何度でも生き返ってしまうのであれば、確実にとどめを刺されていた魔力をぶつければいいだけのことなのだ。
握りつぶしたときに何か悲鳴のようなものが聞こえたような気がするが、それを気にすることはなく彼女はパッパと手を払っては鼻歌を口ずさみながら楽しそうに地下へと向かって足を進めだしたのだった。
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