第17話
「言う! 何でも答えよう! だから!」
「では、一問目。貴方は、王家関係者ですか」
「……ああ。元々は王家のお抱え術師として、仕えていた」
カルミアはいつの間に外したのか、眼鏡は掛けていなかった。
じぃ、とまるで何も映すことをしない鏡のような瞳で目の前に居る男を見つめては満足そうに目を細めて頷いていた。彼女には、たとえひとさじの嘘が紛れ込んでいてもそれに気づくことが出来る、否。出来てしまうのだ。
「なるほど? ちなみにですが、ホムンクルスの技術とその若返りの霊薬に関しても王宮仕込みですかね?」
「ああ。霊薬は師匠に頂いたものだ。ホムンクルス技術については、元より私の専門だ」
「へぇ、そうだったんですね。ホムンクルスの専門だなんてあるんですね。結構、私もその手については詳しいのですがかなり専門としている者は少ないでしょうね。使いこなすことが出来ても、禁止されている国も多いので食うための専門ではないですからね。ところで、その霊薬に関していつお飲みになられたんですかね」
興味があるのか、否か。にっこりと感情の読めない表情で質問を投げるカルミア。
男は、そんな彼女の態度に少しだけ驚きながらもそっと視線を泳がせては身長に言葉を選んでいるのだろう。一つでも言葉を間違えば、この女が何をするか分からないということを男も理解してしまったのだろう。ゆっくりと息を吸い込んでは言葉を紡ぐ。
「じゅ、十七年ほど前、です」
「へぇ。大体十七年前。となると、大体マリア王妃が処刑されたあたりということですかね。ありがとうございます」
「……では!」
「じゃあ、今から麻酔を打ちますね。中身はどうなっているのかなぁ。売れる綺麗な臓器とか、道具生成、錬金術で使える素晴らしい贓物や血があれば万々歳なんですけどねぇ。楽しみだなぁ」
「な、なッ!? は、話が違うじゃないか!」
最初の問いに関しては、問題なかった。
しかし、二回目の問いに関しては少しの濁りが存在していたことにカルミアは当然気づいていた。霊薬に関しても貰ったことは事実であるが、それ以外のことは嘘が混ぜられていたことに気づいていたからこそこの態度なのだろう。否、元より彼女からしてみればどのような回答をしても始末することは確定でありその解体方法が変わるくらいの微々たるものだったのだがそれを男が知る由もない。
その嘘についても問い詰めたところで、男はカルミアの瞳のことを知らないし話したところでそれを証明する方法はない。男がどうにか言い訳をするように誤魔化してくるのは安易に予測がつく。
「クフェアさん、麻酔が入った袋を取ってくれませんか?」
「ほらよ」
「ありがとうございます。……えっと、どうやって入れるんでしたっけ。あぁ、もう。面倒ですし、この液体を取り出して魔力を編み込んで使っていきますか。では、最期に何か言い残すことはありますか?」
カルミアはクフェアから、投げられた麻酔液が入っている袋を持ちながらそっと袋を指でなぞった。
彼女は、魔術や錬金術などであれば知識豊富であるがとりわけ医療などに関しては知識がない。魔法薬学や回復魔術を習得はしているが、実際に人を治すということであれば加減が知らないためにできないのだ。そもそも、彼女の性格上滅多なことがない限り他人を治癒することがありえない。
「質問に答えれば助けてくれるんじゃあなかったのか!?」
「……はて。私は考えると言っただけで、別に助けますとか一言も言っていないのですけど。何を早とちりしているんですか。それに、貴方が霊薬を渡されたのは大体十七年前ではなくもっと前じゃないですかね。若返りなのかな、と思ったんですがもしかすると時止の霊薬なのかもしれませんね。まぁ、そういうことは解体すればわかることなんですけどねぇ」
ペロリと舌を出して、なんともお茶目な素振りで告げるカルミア。
男は再び口論をしようと口を開くが、開いた口から音が出ることはなかった。何故ならば、彼の声帯を鋭利なナイフが穿っていたのだ。勿論、ナイフの柄を持っているのはカルミア。最初は麻酔をかけるつもりだったのだろうが、やり取りをしていて面倒になってしまったのだろう。もしくは、彼女の癪に障ったのか。
はたまた。
「うっさいなァ。折角、痛くないように麻酔をかけてからじぃっくり解体して殺してあげようと思っていたのにパァじゃないか。ああ、そうだ! 折角だから、生きたまま解体しようジャあないか! 手足は縛っているね? 喉は穿っているネ? よし、では始めようではないカ。人間解体ショーだ!」
まるで、打ち上げられた魚を捌くような軽い手つきで鼻歌交じりで的確に麻酔もかけることなく男の身体にナイフを入れては解体していく。この部屋には、解体するためのメスなども存在していたが彼女はそれを使うことはなかった。クフェアは横目で、嫌そうな表情をしてからそっと解体ショーから目を背けた。男はカルミアの手によって喉が潰されているので叫ぶこともできない。
断末魔が響くことはないので、この部屋に響いているのは音もない吐息の一つだけ。男はいつの間にか、多くの血を流したのか既に気絶してしまっていた。もしかすると、もう息絶えてしまっているかもしれない。
「手際が良いな」
「まぁ、最近はしていなかっただけで昔はこういうこともたくさんしていたので。慣れているんですよ。……クフェアさんはもう目を背けなくて良いのですか?」
「ああ、少しだけ息を整えたら慣れちまったのかもな。別に俺も、こういうことに慣れていないわけじゃあない。色々昔はやんちゃしていたからな。ここまでなことはしたことねぇし、関わったことはないが」
彼のいう「やんちゃ」というのは、国から追放されるような形ででてきたことが関係しているがその話は今は省くとする。
カルミアはその時のことを思い出したのか、クスリと口角を上げて笑っては「そうでしたね」と告げるだけで男の解体を進めていく。臓器を取り出して確認しては、特殊な容器に入れていく。本命は脳であるが、彼女からしてみれば臓器も大事なものなのだろう。
「で、どうだ?」
「そうですねぇ。臓器などを見る限り、この人が飲んだのは若返りではなく時を止めるものでしょうね。全ての臓器が若いままで全てが停止しています。それでも生きていた、ということは魔術を使って生きている状態を疑似的に作り出していたのかもしれませんね」
切り開かれた腹部から動きを完全に停止している臓器を見ながら興味深そうに告げる。
臓器の一つを取り出しては、潰れないように慎重に持っては何かを感知するように目を閉じる。魔術を使いこなすことが出来れば、魔術を張り巡らせて何かを感じ取ることも出来る。そのようなことが出来るのは、上級魔術師以上の限った話だ。
「これはちょっと解析したほうが良いかもしれないですね。めっちゃ臓器はあったかいんですが……。やっぱり臓器の中で魔力が巡っています。っと、さっさと脳みそを取り出して保管してしまいましょうか」
カルミアの言葉に、ようやく今回の目的をするのか、と頭を抱えそうになるのを必死でこらえてはクフェアは頭蓋骨を開くことが出来る道具を探す。骨を切ってそこから脳みそを取り出すのだ。それなりの道具が必要になるだろう。だがカルミアは道具の要求をすることはなく男の頭をすぅ、と指でなぞるように撫でていく。刹那、男の頭には指でなぞられた場所に切れ込みが入りパカリと取れた。
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