第37話

「断言はできませんが、おそらく限りなく事実に近いと思います。本日、修道院へ行きました。至って普通の修道院と言いたかったのですが、隠し通路が存在しており地下が。その中には、行われていたであろう実験のファイルや培養液の中によく分からない生物などがありました。全て、回収していますので昨日の死刑囚の臓器に似ている部分がないか照らし合わせを行う予定です」

「では、……」

「夕食まで時間はあります。夕食時には、食堂へ行きますので。じゃあ、クフェアさん。勿論、手伝ってくれますよね」


 サリュストルの言葉を意図的にさえぎっては、そう告げてクフェアと共にその場を立ち去っていく。サリュストルは、少しだけ泣きそうな表情をして二人の後ろ姿を見て静かに目を伏せた。


「やっぱりカルミア殿は、身内には優しい人ですね」

 その言葉は、誰にも聞かされることなくゆっくりと空気に融けて消えて行った。



 クフェアと共にカルミアは、借りている部屋へと戻ってきていた。

 二人は、そのまま鞄をベッドにおいてカルミアは椅子に、クフェアはベッドに腰を下ろして本日の情報について整理を行おうとしていた。


「まずですが。……サリュストル先生の屋敷にまでやってきたということなので、帝国軍は明らかに黒であると考えるべきでしょう」

「あと、あの部屋の状態から考えると実験は今も続いている。革命時には、貴族をモルモットで使っていたんだろうが……今は何を使っているのか。普通に考えて、死刑囚を中心とした囚人だろうが、下手すりゃ平民も使ってるんじゃあないか」


 膝に肘をついて、頬杖をつきながら言い捨てる。

 王位継承権がないと言えども、クフェアは元より王族だ。それなりの教育もされているし、基本的には自身の国の民のことを考えて行動をすることだって多い。現在は、様々な事情から国を離れてカルミアの元に居るがどれだけ護衛として手荒なことを行おうとも、育ちの良さは隠しきれない。

 カルミアは、神妙な顔つきで、考え込んでは小さく頷く。

 現在も実験が行われているということは、彼女的には誤算ではあったもののある程度は行動の軌道修正を行うことが出来る範囲内だ。


「使用されている平民は、まぁ普通に考えて家も金もないような浮浪者を使っているのでしょうね。囚人に関しては、私も高確率で使っていると思います。そしてそのつなぎ役はチェイルジュリが行っていそうですね」


 チェイルジュリに収容されていたホムンクルスを操る男のことを思い出す。

 あの監獄も中々にグレーなことをしていたのだ。それをその部分だけで隠蔽するには少々大変だ。そうなると、必然的に皇帝と何か裏取引をしている可能性がある。実験用のモルモットが欲しい皇帝側と、囚人を収容しており違法なことも行っている監獄。情報を隠蔽する代わりに囚人を差し出している、と言われても納得できる。


「ともかく、今は私たちに出来ることをするしかありません。まずは、あの生物と呼べるのかさえも怪しいやつと昨日の男の臓器に関係があるか調べてみます」

「調べたところで何かわかるもんか?」

「正直、なんとも。ですが、調べる価値はあると思います。もし一緒だった場合、あの男はただの囚人ということではないかもしれないです。それに、ちょっとおかしな軍人たちは全員殺してしまったのでサンプルがないんですよね……」


 何処か肩を落としてがっかりとしているが、その時はそこまで頭が回らなかったカルミア自身のミスだ。どうしてもあの時は、自身のお気に入りのローブの件で頭に血が上ってしまっていたのだから仕方がない。

 カルミアは気を取り直すように、顔を上げてクフェアを見つめて再び話し出す。


「あと、別件ですがこの国の歴史も必要になりますね。私はこちらで、ひとまずかかわりがあるか見ますので代筆をお願いできますか? ああ、記録者の友人へ記録を取り寄せるには手紙を出してここに入れたら彼女が見てくれるのでね」

「そもそも、記録者ってのは干渉することはしないんじゃあないのかよ」

「それは記録者によりますよ。彼女たちだって、感情のある人なのですから。そりゃあ、思うところだってあるでしょう? 私だってそうですし」


 果たしてカルミアと同じベクトルで考えても良いものなのかは疑わしいところであるが、クフェアは素直に頷いてペンと紙を用意して代筆を行うことにする。その隣では、カルミアは鞄の中から天秤のようなものと地下室で手に入れたよく分からない生物を入れた瓶を取り出している。

 粛々と、カルミアは机の上に昨日の男の体内から取り出した臓器の入った容器を並べてから鞄の中へと手を突っ込んで本日採取した培養液入りのよく分からない物体、そして先日広場で採取した魔力の入った植物を入れた小瓶の三つを取り出して綺麗に並べている。

 その後に取り出したのは、これまた雑にしまい込まれていた金色の理の天秤。


「……理の天秤で何がわかるんだ?」

「この天秤は、私が独自に改良したものです。魔力を測定するのに使用している特殊天秤なのですが、同じ魔力であれば釣り合うようにしているんです。どれだけ質量が異なろうとも、不思議と魔力さえ一致していれば釣り合う天秤なんですよ。私の知りたいことは、この場所も性質も違う場所から採取したものが同じ魔力を有しているのか」

「だが、男の臓器に関しては後天的に造りあげられたんじゃ……?」

「はい。そうですね。……記憶の中に映りこんでいた者から受け取ったものを飲んで後天的に造りあげられたと考えるのが一般的でしょうね。つまり、ですよ。一致すれば私の想像が一つ前に進む。だて、この培養液の中の物と同一ということは、関りがあるということでしょう」


 まず天秤に乗せられたのは、男の臓器の入った容器。片方の受け皿に乗せられているのは、魔力がしまい込まれている小瓶だ。

 ゆっくりと観察するように見ているカルミア。数秒経ってもどちらかに傾かないことを確認して、魔力の入った小瓶をさげては次に培養液の中に入っている物体の入った容器を置いた。


「これは、釣り合っているのか……? 微妙に傾いているような気もしなくはないが」

「釣り合っていると考えましょう、これは」


 クフェアの言う通り、先ほどとは違い中々安定して釣り合うことがない。

 だが、それは微々たるものであるため釣り合っていると考えるカルミア。両方の受け皿から二つの容器を取っては机の上に置く。続いて彼女は、ゆっくりと鞄の中から無造作に入れ込んだ複数のファイルを取り出して半分を代筆中のクフェアに渡して半分は自身で持ちながらページを捲っていく。

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