第3話 バウンティハンターの危機(一)

 そう遠くない所から、複数の足音が近づいてくる。これは間違いなく敵だ。ヴァルラは今、悪評高い盗賊団のアジトに潜入しているのだ。


 彼は24歳になる賞金稼ぎバウンティハンターだ。彼の父も賞金稼ぎで、ヴァルラはその影響で物心つく頃から銃やナイフを扱ってきた。そして現在、その腕は誰しもが認める超一流になっていた。

 だが、今回ばかりはまんまと罠にかかり、敵のアジトの只中で深手を追い歩き回っているのだった。


「……ちっ、クソが……!」


 小声で悪態をついて、ヴァルラは足音のする反対側へと廊下を進んだ。嫌な予感が彼の胸をざわめかせる。案の定、前方からも足音が迫ってきた。


「どこが5,6人なんだよ……」


 ラウの情報だからと一応裏は取ったつもりだったが、やはりガセネタだったようだ。前情報の通りに敵の数が5,6人ならもうとっくに倒している。しかし周りから感じる気配からすると、少なくともあと10人はいるだろう。今すぐ体勢を立て直して応戦する必要がある。さて、どこへ逃げ込もうかとヴァルラは辺りを見回した。


 彼の目に入ったのは、地下への扉と2階への階段。迷っている余裕はなかった。ヴァルラは激痛をこらえて階段を駆け上がる。

 階段を上りきると、廊下の途中に重厚な外開きの扉があった。


 その扉を盾に、ヴァルラは階段を上がってきた追っ手を一人ずつ倒していく。残りの弾数は限られているため、彼は弾1発で最低1人を無力化していかねばならない。手負いではあるが、ヴァルラの腕は立つ。敵の胸や頭を狙った弾は、確実に敵を屠っていった。


 更に5,6人を倒した頃には、彼は自分に勝算があると感じ始めていた。


「よし、イケるか」


 しかしそう思った瞬間、ヴァルラは背中に灼ける強い痛みを感じて膝をついていた。瞬時に撃たれたのだと気付いて、振り向きざまに自分を撃った男に銃弾をお返しする。男はこん棒で叩かれた西瓜のように頭を破裂させて崩れ落ちた。


「──ヤバいな……」


 腹に2発。そして今、背中に1発。その他肩や腕にも複数の銃弾を浴びている。出血が酷く、目がかすんできた。一方、2階に上がってきた追っ手は他の部屋から回り込んでヴァルラがいる部屋へと向かってきている。


「仕方ない……!」


 ここは1階にジャンプするしかない。ヴァルラは覚束ない足取りで窓に近付き、そのまま跳んだ。……というより、真っ逆さまに落ちて行った。

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