第22話 バウンティハンターの買い出し(一)
ヴァルラは山道をひとり下っていた。森の中に飲み込まれたようなその道は、夕方に差し掛かっていることもあり、すっかり暗くなっていた。
くねくねと折れ曲がり、分かれ道も多いこの山道は、まるで迷路のようだ。招かれざる客がやってくるのを防ぎたいという意志を強く感じる。
迷いそうな山道を歩くのには慣れているヴァルラだったが、敢えてこの道を、帰る道を覚えなくとも良いと彼は考えていた。
(本来結ぶはずだった契約の内容が、俺が奴らを退治しちまったからパァってのはおかしいだろ)
一度は下僕として一生懸命やっていた彼だが、いざ屋敷を離れてみるとあれが夢ででもあったかのように感じられてきた。契約だとか主従だとか、もう何だかどうでもよくなってくる。
本来の交換条件である「盗賊団を追い出す」という仕事はもう既に遂行しているのだ。義理は果たしたはずだ。加えて下僕として働く必要がどこにあるだろうか。
ルーファウスは屋敷から出るのを好まない様子だ。世に聞くヴァンパイアのような執拗さも感じられなかった。たとえこのままヴァルラが逃げ出したとしても、わざわざ他の土地まで追いかけてくることはないだろう。
そのつもりもあって、「買出しに行ってくる」と言って屋敷を出る際には、僅かな私物も全て持って出てきた。これでいつでも自由になれるのだ。
幸いこの町は小さいながらもそれほどさびれてもおらず、電車やバスもそれなりに動いている。ヴァルラの足は無意識に木造の三角屋根の駅舎の前へと向いていた。
駅の前はバスターミナルになっており、古びたバスがいくつか停まっている。乗り場に貼られている時刻表を見るが、風雨に晒されて文字が読みにくい。
彼は近くにいた地元の人間らしき男に声をかけた。
「次の長距離バス? だいたい20分後くらいかな」
今まで通りの日常に戻るまで、あと20分待てばいい。父親の仇は取った。妙なヴァンパイアに振り回されることもなくなる。ヴァルラは急にホッとして全身の力が抜けたようになった。
彼はバスの待合所のベンチに身体を投げ出すように座り、大きく息を吐き出した。
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