第23話 バウンティハンターの買い出し(二)

 吐いた息を吸う。その時、ふと鼻をくすぐる香りが漂ってきた。──肉だ。肉の焼ける香ばしいにおいだ。

 それはどこから来るのか、ヴァルラは思わず立ち上がってきょろきょろと辺りを見回す。すると、駅舎の近くに並んだ古くてカラフルな屋台が目に入った。


 丼に入った麺や、大きな饅頭、そして大きな肉の塊を回転しながら焼いている店もある。大きなナイフで焼けた肉の塊の表面を削いでいる。さっきの肉のにおいはここから漂ってきているようだ。


 思わずヴァルラの喉がごくりと鳴った。先程食べたベーコンをすでに消化してしまったかのように、彼の腹の虫が賑やかに主張する。


「ううううううう、……肉ぅ〜」


 唸るような声を絞り出し、ヴァルラはふらふらとその屋台に向かって歩き始めた。


「どうだい、柔らかくて美味い仔羊の肉だよ」


 削ぎ落した肉を皿に盛り、赤いソースをかけながら店主はヴァルラに向かって笑いかけた。ヴァルラは鼻息荒く何度もうなずく。


「それ、くれ!」


 さっき警察で受け取った懸賞金の中から少額の札を差し出して、おつりと肉の乗った皿を受け取る。フォークで肉を口に運ぶと、口の中に肉汁と程よいスパイスの香りが広がった。


「美味ぇ!!」


 そう一言吠えると、あとは黙々と食べ続けた。

 肉を食べ終わってもヴァルラの胃は満足しなかった。隣の屋台では色々な種類のパイを売っている。


「パイもいいな。おい、何がおススメだ?」

「いらっしゃい。どれもお勧めだけど、やっぱりアヴェリオンといったらリンゴだろ。アップルパイが一押しだね」


 屋台店主の言葉に大きくうなずいて、ヴァルラはアップルパイを注文した。

 店主の言う通り、この国アヴェリオンではリンゴが名産で、ヴァルラも好きな果物のひとつだ。しっとりとしたタイプのパイの皮の中には、薄くスライスされ、サクサクとした食感が残った煮リンゴが入っていた。シナモンの香りも程よく効いている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る