第24話 バウンティハンターの買い出し(三)
パイの隣の屋台は飴屋だった。実に色んな飴が売られている。透明でカラフルな棒付きキャンディーは、鳥や花、星の形をしている。その他にも、綿のような虹色の菓子、数十種類ほどあるロリポップキャンディなど、目移りするばかり。
その中でもひときわヴァルラの目を奪ったもの。ガラス瓶の中に、球状で凸凹のある色とりどりの砂糖菓子。それは星のような形の小さなキャンディだ。綿菓子の陰に隠すかのようにそっと置かれている。
「珍しいだろう。コンペートゥっていうんだよ。アジアの小さな島国からこっそり仕入れてるのさ」
店主は小声でそうささやいた。
アジアと聞いてラウを思い出す。ラウの本家は大陸の半島にあると聞いているが、同じアジアならラウも知っているだろうか。
少なくともヴァルラは今までこのコンペートゥとやらを見たことがなかった。ラウも珍しがるだろうか。
自分にガセネタを売りつけて命の危険に晒した張本人ではあるが、どうにも憎めないのがラウという少年だ。実家が除霊師の名門だというのに、情報屋になってほぼ勘当されている状態だという。
まだまだ未熟だが、その熱意と誠実さを見込んで時々情報を買ってやっていた。良い情報屋というのはそうやって育てていくものだ、と生前彼の父が言っていたのだ。
「──ラウに土産でも買って行ってやるか」
ヴァルラはそのガラスの器を手に取り、何気なく値札に目をやる。そこには『120シードル(1シードル=1米ドル)』の文字が。
「高ぇなっ! 桁間違えてんぞ!」
しかし店主は涼しい顔で小さく首を振る。
「遠い国からわざわざ取り寄せてるんだ。違法品なんだからこっちだって綱渡りなんだぞ。嫌ならこのリンゴ飴でも買って行きな」
そう言われてしまうと文句も言えない。
ここアヴェリオンは、世界で唯一ヴァンパイアが棲息する土地だ。
昔、ある日突然この島にヴァンパイアが現れて、爆発的に増えていった。世界の各国の首脳たちは、ヴァンパイアが自国に入り込まないようにと即座に国交を断絶し、アヴェリオンを世界地図から消し去ってしまった。
以来、この国は国内の産業だけで自活し、あとは非公式の貿易だけが細々と外貨を稼ぐ手段となった。
そうした非公式の貿易で手に入れたのがこのコンペートゥというわけだ。べらぼうな価格だが、高いとは言えないのだろう。
「割れないように包んでくれよ。いいか、念入りにだ」
ヴァルラはカウンターに札を数枚放り投げた。
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