第21話 バウンティハンターのお料理(三)

「さーて、俺も食うか」


 ヴァルラはキッチンにあるダイニングテーブルに雑然と置かれた皿の中から、焼いたベーコンの塊に手を出した。その真ん中にフォークを刺して噛り付く。


「うん、美味ぇ。やっぱ肉だよな、肉」


 腹が空いていたヴァルラは、ベーコンやじゃがいもをがつがつと平らげていく。その勢いのまま、焦げたパンを手で掴んでかぶりついた。


「──なんじゃこりゃ!」


 思わずぺっと吐き出し、袖で口を拭う。彼が爆誕させたそのパンという名の物体は、とても食べられたものではなかった。パンというにはほぼ膨らんでいなくて、硬い。更に表面をこそぎ落としたものの、その焦げくささは中までしみ込んでいる。

 要するに「クソまずい」の一言だ。


「やべぇもん出しちまった!」


 ヴァルラは立ち上がると、全力でダイニングへと走った。そうしてそのドアを勢いよく開けて駆け込んだ。


「ちょっと待った! アレは食うな!」


 そんなヴァルラの突入に、主はまたしても目を丸くして固まった。金の瞳を瞬かせる。


「──いつもながら、賑やかな奴よの」

「アレは失敗作だ。食うなよ。絶対食うなよ!」


 そう叫んだヴァルラの視線の先には、既に半分ほど食べ終わっている例のパンらしき物体が。


「ああっ、食っちまったか! ……つーか、よく食えたな?!」


 愕然としている下僕しもべに、主はにかっと笑ってみせる。


「普通のパンよりも硬かったが、スープに浸すと丁度良かった。少々行儀が悪いが、なに、誰もおらぬのだから構う事もなかろう」


 ヴァルラは呆けたように主の笑顔を見つめる。


「そこまでして食わなくても……」


 思わずつぶやく下僕の言葉に、主は柔らかい声で噛みしめるように言った。


「よいか。物事すべてには、何かしらの可能性があるものだ。一見駄目なものであったとしても、方法次第でどのようにも生かせると私は思っている」


 ヴァルラは茫然と主の言葉を聞いている。


「……それにな」


 主はちぎったヴァルラのパンを手に、それを見つめながら言った。


「それに、下僕しもべであるお主が初めて作ってくれた食事であるぞ。残すなど勿体ないではないか」


 そうしてそのままスープの皿に浸けると、口の中に入れてにっこりと微笑んだ。

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