第20話 バウンティハンターのお料理(二)
「うむ、すまぬな」
席についた主はまず籠の中の、まだらに黒っぽい未知の物体に気付き目を丸くした。少しの間固まっていたが、すぐにいつもの穏やかな表情に戻って
「ナプキンはあるか」
膝の上に手を置いて仕草で示した。
ヴァルラは一瞬きょとんとした。言われてみればドラマなどで食事の時に膝の上に布をかけているのを見たことがある。
「あー。アレな。布だろ。ちょっと待ってろ」
ヴァルラはキッチンの隣の食器などが仕舞ってある部屋へ行った。先程食器類を探していた時に見た覚えがあったのだ。
きれいに折り畳まれて積み上げられているナプキンを1枚掴んで、彼は小走りでダイニングに戻る。そうして持ってきた白い布を、放るように主の膝の上に乗せた。
「ほれ。これって本当に使うやつ、いるんだな」
「うむ、服に食事の汚れがつかぬようにな。また、これがマナーでもあるのだ」
主はナプキンを折り、美しい所作で膝の上にかけた。そうして短く祈りを捧げた後に食べ始める。
彼は器用にナイフとフォークで、ブロック状のベーコンの塊を小さく切り分けて上品に口に運んでいく。
一緒に盛ったジャガイモの熱さでチーズが溶けてのびるのを、愉快そうにフォークでくるりと巻き取る。何の飾り気も彩りもない、味付けも塩と胡椒程度のものだが、主はうなずきながら微笑んだ。
「うむ。なかなかの出来であるな。キャンプのようで楽しいメニューだ」
「キャンプか。そうだな……俺は子供のころから家がなかったからな。まぁ、ずっとキャンプみたいなもんだ」
ヴァルラは肩をすくめてみせた。数日ならキャンプだが、何年も続けばそれはサバイバルだ。そんなことを思って彼は主に見えないよう微苦笑を浮かべた。
「家がないとはどういうことだ? 父を亡くしたからか?」
「ちげーよ。俺の親父もハンターだったろ? 仲間もいて、皆チームだった。俺達は流れ者で、野宿したりたまに宿をとったりしてな。獲物を追いながら暮らしてたんだ」
ヴァルラは僅かに顔を歪めた。
その父親と仲間たちを、殺されたのだ。仇は取ったが彼らはもう戻らない。
「あー、腹減った。俺も自分の飯を食ってくる。じゃあな」
そう言うと、ヴァルラはくるりと背を向け、そのまま後ろに向かって手を振り歩き出した。
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