第4話 バウンティハンターの危機(二)
受け身を取ったつもりのヴァルラだったが、体が言う事を聞かず、落下の衝撃をもろに食らった。激しい痛みと嫌な音で、鎖骨や肋骨、足の骨が折れたことを知る。
しかし幸いな事に、ヴァルラが落ちた建物の外に敵の影はない。
『今のうちに……』
見回すと、近くに物置小屋がある。とにかく身を隠したいヴァルラは、その小屋へと這って行った。途中で何度も意識が遠のくが、彼の貪欲な生への固執がひたすらにその手足を動かし続けた。
半開きになっていた物置小屋にその身を隠す。隠すと言っても、彼が落ちた地点からここまでは、血と交じり合った土の黒い線が延々と続いている。彼がここに隠れているのは明白だ。2階から追っ手が降りて来れば見つかるのは時間の問題だった。
いや、時間で言うならば、彼の体から流れ出る血の量の方が着実に彼の命を脅かしていた。もう手を動かす事も出来ない。目も見えない。ただ弱々しい息を止めないように、それだけが彼ができる全てだった。
『……死にたくない』
ただそれだけを願った。切実に、強く望んだ。誰にということはない。彼には祈るべき対象がない。それでも、繰り返しそれだけを願ったのだ。
すると、不思議なことが起きた。
──生きたいか?
不意に低く響くような声がした。いや、声というよりも、直接意識に語りかけられているようだと彼は感じた。大量の失血による幻聴だろうかとも。
それでも良かった。彼は今、幻聴にでも頼りたかったのだ。
『生きたい。死にたくない』
もう声も出せないヴァルラはそう必死に頭の中で訴えた。意識が、命の火が消えていきそうな今、1秒でも早く助けて欲しかった。
──助けてやらなくもない。私と契約するなら、だが。
焦るヴァルラに対し、その声は勿体をつけるように答えてきた。思わずヴァルラは心の中で叫んでいた。
『契約でも何でも良いから早く助けやがれチクショー!』
実際に叫んだわけではないが、力んだ拍子だろうか。ヴァルラは再び大量の血を吐き出した。失血量が一気に増えて、彼の命はまさに風前の灯火に。
『……あ、しまった。こりゃ死ぬ』
ヴァルラはがくりと床に頭をつけた。
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