第2話 ゴーストバスターの憂鬱(二)

「逆に聞くが……」


 マスターはカウンター越しにラウに顔を近づけて真顔で答えた。


「お前がガセじゃない情報をヴァルラに売った事あったか?」

「なんだよそれ! 傷つくなー。まるで詐欺師みたいな言い方っ」


 言われたラウは、心外だとでも言うように胸に手を当てて仰け反る。が、マスターの瞳は冷ややかだ。


「あいつ、お前の師匠に世話になったから黙ってるけど、お前の情報の裏を取ったらガセだった、ってこと結構あったらしいぞ」

「マジか」


 ラウの表情が固まった。


「今回は一体どんなガセ掴ませたんだよ」


 呆れたような顔のマスターから目を逸らして、子犬の尻尾のように結わえた黒髪をもてあそぶ。


「ヴァルちゃんが探してた盗賊団のアジト見つけたんだけどさ。人数が5,6人て聞いたからそう伝えたんだけど……実は15,6人だったらしくて」

「3倍じゃねぇか!」


 マスターが叫ぶと、同時にツッコミを入れるかのように先程の扉が大きく開いて、一度仕舞った缶詰達が大量に飛び出した。

 それには目もくれずにラウは頭を抱える。


「で、情報の出どころがさ。その盗賊団お抱えの情報屋だったらしくて……」

「完全に待ち伏せじゃねぇか!」


 今度は棚の上に並べられたグラスが飛び跳ねて、床の上で粉々に砕け散る。


「大丈夫かな-、ヴァルちゃん」

「大丈夫じゃないと思うぞ」


 マスターは神妙な面持ちで床の上に散らばった割れたグラスを掃き集めている。


「で、でもヴァルちゃん言ってたよ。『俺が盗賊団を殲滅せんめつさせて帰ってきたら巨乳のおねぇちゃん達と豪遊するんだ』って」 

「ますます大丈夫じゃない気がしてきたが……まぁいい。お前はこの店を何とかしてくれ」

「うーん、もうこの際こうしておけばいいんじゃね?」


 ラウはキッチンにあった容器から塩を取り出し、棚やグリルに向かって大量に撒き散らした。

 途端に店全体が大きく揺れ、店の中に大量の黄色い煙が立ち込める。その後煙は塊となり、ぶるるとその体を揺らすと、轟音を立てて逃げ去って行った。


「あれ」


 意外な結果に目を丸くするラウ。


「なんだ。お前結構凄いんじゃないか、ラウ」

「ま、まあね。大したことじゃないよ。ヴァルちゃんだってきっと今頃バッタバッタと盗賊団をなぎ倒してるだろうさ……」


+++++


 血濡れの手のひらを大理石の白い壁につくと、熟れたトマトのような真っ赤な染みがついた。手はそのまま壁をって、かすれた赤い線が長い廊下にのびていく。


「ラウ……待ってろよ。必ずお前の元に生きて帰って……俺は……」


 撃たれた腹を押さえると、豪奢ごうしゃ絨毯じゅうたんに鮮血が滴り落ちる。


「お前の全身の毛をむしってやる……っ!」


 ヴァルラは決意の言葉と共に、大量の血を吐いた。

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