第9話 契約の中身(一)

 それは白い少年だった。

 限りなく白に近いプラチナブロンドに、透き通るような白い肌。140cmにも満たない華奢な身体には、襟と袖にフリルのついた白いブラウスと臙脂色のベスト。そのいでたちはヴァルラの目には古めかしく映った。

 しかしその堂々とした姿には子供とは思えない威厳があり、何よりもその金に輝く瞳が、見る者に畏敬の念を抱かせた。


「なんだ……子供じゃねーか」


 気圧けおされていることを悟られないように、敢えて横柄な態度をとるが、目の前の少年は意に介さない様子で静かに微笑んでいる。


「で? 契約とやらを聞かせてもらおうじゃないか」


 ヴァルラがそう言うと、少年は困ったような顔で何度もうなずいた。


「それが、実を言うと困っておる」


 その声は、頭の中に響いてきていた低い声とは違う、見た目に相当するような子供らしい高めのものだった。


「呼びつけておいて困っているもないだろうが。良いから早く教えろよ」

「そう急かすでない。私の依頼は……ここに棲みついていた盗賊どもを追い出して欲しいというものだったのだがな……」


 ヴァルラは目を丸くした。


「そいつはまた……」

「そうだ。屋敷どころではない。この世から追い出してしまったな」


 そう言って少年はくすくすと笑いを漏らす。


「この世から、か。確かにな」


 ヴァルラも笑いを含んだ声で返した。


「それじゃあこれで契約成立ってことで。じゃあな、俺は帰るぜ」


 立ち去ろうとしたその背に、少年の声がかけられる。


「いや、そうはいかぬ」

「──はぁ? なんでだよ!」


 振り返りざまに叫ぶその声は明らかに苛ついていた。


「契約が取り決められた後に遂行されねば、それが成立したとは言えぬ。何か代わりの条件が必要だ」

「ちっ、めんどくせーなぁ。それじゃ一体何をすればいいんだよっ! 殺して欲しい相手がいるならさっさと決めてくれ」

「──ふむ。命をとりたいと思う者はおらぬ。無闇と人の命を軽んじるのは芳しくないことだからの」  

「ふん、さすがにガキだ。甘ちゃんだな。殺らなきゃ殺られるって世界もあるんだよ」


 まさにそういう世界に生きているヴァルラは、少年の理想論をせせら笑った。少年はそれを気にする様子もなく微笑みで受け止めてうなずいた。


「では、こうしよう。半年でよい。お主、私の下僕しもべになるのだ」

「──はぁっ?! なんでだよ! 俺は腕利きのバウンティハンターだぞ? 下働きなんぞ冗談じゃねえ」

「盗賊どもに我が下僕は皆殺されてしもうた。大層不便をしておるのだ。……それにお主のように強い者なら安心であろう?」


 最後の一言が気に入ったようで、ヴァルラは一転機嫌を良くした。

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