第8話 屋敷の中

──名は何という? 

 

「ヴァルラだ。……あんたは?」


──まだ名乗るわけにはいかぬ


「……っ! なんだそりゃ! 人の事は散々聞いておいて……」


──まずはじかに顔を見せよ。同じく私も姿を見せよう。対面の上で私も名乗ろうではないか。屋敷の玄関から中に入るがよい。


 この盗賊団のアジトに侵入するのに前もって下調べをしていたおかげで、この屋敷の間取りは頭に入っている。屋敷の裏手にある物置小屋から玄関に向かって進んで行くと、外国のマナーハウスをやや小さくしたような造りの屋敷の正面に出た。

 

 蔦の絡まった石造りの建物に、煉瓦色れんがいろの三角屋根。庭は屋敷を囲む森と一体となっており、それほど広くはないが、よく手入れされている。

 

 敵は全員倒したはずだが、ヴァルラは緊張を解くことはせずに銃を構えて慎重に進む。大きく重厚な扉を開けて中に入ると長い廊下に出た。男が一人血を流してこと切れている。ヴァルラが殺した見張りの一人だ。


──書斎へ。私はそこで待っている


「ちっ、勿体つけやがって……」


 ヴァルラは忌々し気に舌打ちした。しかし言われたとおり素直に書斎へと向かう。道すがら、ところどころに盗賊の死体が転がっている。全てヴァルラの手によるものだ。

 死んでいる敵にもう興味はない。彼は一瞥いちべつすることもなく屋敷の奥へと進んだ。


 程なく彼は書斎にたどり着いた。ノックすればいいのか、声をかければいいのか一瞬迷ったが、よく考えてみれば相手は自分の動きを把握している。構う事はないと、無言でドアを開けた。

 そうして、目の前にいた人物を見て、ヴァルラは言葉を失った。

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