第7話 謎の声

「さて、と」


 男の胸に刺さったままのナイフを抜き取り、男のシャツで丁寧に血を拭うと腰のホルダーに仕舞った。


「待たせたな。誰だか知らんが助かったぜ。こっちは片付いたから話を聞かせてもらおうか」


 すると謎の声は、愉快そうに低い笑いを漏らしながら語りかけてくる。

 

──面白い男だ。何故なにゆえにこの屋敷に来た? あの男たちを単身倒そうなどと何故なにゆえに思い立ったのだ?


 ヴァルラは足元に転がる男を足で転がし、本当に死体になったかどうかを確かめながら答えた。


「このクソったれ共はな、俺の親父の仇なんだよ。ずっと探してたら情報屋からここの話を聞いてな。皆殺しにしてやろうと思って来たって訳だ」


──その割には手酷くやられておったようだの


 くすっと笑われて、ヴァルラの頭に血がのぼる。


「うっせー。ガセネタ掴まされたんだよ! そうでもなきゃこの俺が強盗団なんぞにおくれを取るわけがねぇだろうが!」


──ああ、すまぬすまぬ。なに、少々たわむれを言うたまでよ


たわむれ、じゃねーよ! こっちは死にかけてんだ。シャレにならねぇんだよっ!」


 力んでも失血で死ぬ恐れがなくなったヴァルラは、全力で叫んだ。すると、謎の声は神妙なトーンで返してきた。


──うむ、確かにそうであった。すまぬな


 そうして、しみじみと続ける。


──それにしても見事な手際であった。ただひとりであれだけの人数を殲滅せんめつするとは大したものだ。お主の父もさぞ誇りに思っておることだろう


「ま、まあな。伊達に一流名乗ってねぇんだぜっ。まあ、それに、あんたのあの薬のおかげで助かったからな……」


 褒められて悪い気はしない。へらりと笑って、ヴァルラは短く癖のある黒髪を撫で上げた。

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