第16話 はじめての紅茶(三)

 その様子をやや不安げにヴァルラは見守る。


「どうだ? 砂糖もあるぞ。入れるか?」

「──いや、必要ない。折角用意してくれておったのにすまぬな」


 そう言ってもうひと口紅茶を飲む。


「ふむ……」


 主は目を閉じて何度かうなずき、再び下僕が淹れた紅茶を口にする。そのままこくりこくりと紅茶を飲み下していく。ヴァルラが取り切れなかった茶葉を、スプーンの背で器用に避けながら、主はすっかりと紅茶を飲み干してしまった。カップの底に茶葉だけが残っている。


「うむ」


 カップを置き目を開いて主はヴァルラを見て微笑んだ。


「もうすぐ朝になる。朝のアッサムは良いな。慣れぬキッチンでよく淹れたものだ」


 何を褒められたのかよくわからないが、ヴァルラの機嫌はますますよくなっていく。たまたま選んだ茶葉が主の好みに合ったことだけは理解したようだ。ヴァルラは胸を張って腕組みをしてみせる。


「お、おう。このくらい訳ないぜ。何か希望があるなら言えよな」


 主は机の上に肘を乗せ、手を組んでそこに顎を乗せた。


「ふむ。ならば……」


 主は金の瞳をくるりと回してにこりと笑った。


「次は茶葉を茶こしでこすと良いかも知れぬ。それと、もう少し……半分くらいに薄い方が好みであるが……できそうか?」


 ヴァルラは初めて聞いた茶こしというものが何かを考えながら、何度もうなずいた。


「ああ、薄めだな。もちろんできるぜ。任せておけ」


 にやりと笑うヴァルラの、足の震えは気づけば止まっていた。


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