第29話 秘密の部屋(一)
このようなノートは料理についてだけではなかった。侍従の部屋などからいくつかのノートをヴァルラは見つけた。
洗濯の仕方。袖や胸の部分にフリルのある繊細な生地のシャツは、専用の洗剤で優しく手洗いそして陰干しすると良い。
掃除の仕方。掃除機は壁や柱にぶつけないように、本体を手で持ち上げながらかける。また主が読書などをしている時はかけないこと。
他にも庭木の手入れの仕方や食器の扱い方、好きな服の組み合わせなど、多岐にわたり事細かに書かれていた。
その中でたまに出てくる言葉が彼は気になった。
「月が満ちてきたらあの部屋には近づかないように」
「あの部屋へは絶対に許可なく入らないこと」
「あの部屋の掃除はしなくていい。入れと言われるまでは話題にも出さないこと」
「あの部屋」。一体「あの部屋」というのは何だろう。ヴァルラは気になって何度もノートのその部分を読みかえした。
所謂セーフルームのような、盗賊団や警察が来た時に隠れていたというあの部屋の事だろうか。
しかし残されたノートのメモからは僅かに緊張が感じられる。ただの隠し部屋なのに、そんなに気を使うものだろうか。
「──まっ、いいか」
少しだけ気になったものの、ヴァルラはすぐにそのことは忘れてソファに寝転び、お気に入りの雑誌を広げた。先日町に下りた時に買ってきたうちの1冊だ。
「うーん、実りの秋だ。たわわに実ってるねぇ〜」
ヴァルラが鼻の下を伸ばして眺めているのは、巨乳アイドルの写真がたくさん載った雑誌だ。ビキニの水着を着たものや、濡れて透けた白いシャツ姿など、いかにも「男の子が好きそうな」写真が大部分を占めている。
「ぬふふ。眼福、眼福。一日の疲れも吹き飛ぶよなぁ」
まだ主に遅い朝食を出したばかりだというのに、すっかりやりきった感でいっぱいなヴァルラだった。
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