第14話 はじめての紅茶(一)
ヴァルラはキッチンに立っていた。
「うん」
腰に手をあてて、大きくうなずく。
真剣な顔で周りをぐるりと見渡した。
「全っ然わからねぇ!」
キッチンの場所はわかったが、紅茶の茶葉の場所などわからない。カップらしいものもたくさんあり過ぎてどれを使えばいいのか
「とりあえずアレだな。湯を沸かしゃあいいんだろ」
壁にかけてあった手鍋に適当に水道の水を汲んで、火にかけた。その間に戸棚という戸棚、引き出しという引き出しをすべて開けて回る。
「おっ、これか?」
大きな戸棚に紅茶の缶らしきものがずらりと並んでいるのを見つけた。シンプルなロゴ入りのものから鳥や花の柄が入ったものまで様々だ。陶器の壺のようなものまである。
ヴァルラはその中の、金色に紺の線が入った缶を手に取った。金色は高そう。高いなら味も良いに違いない、という単純な理由でのチョイスだった。
ヴァルラは滅多に紅茶を飲まない。ごくまれに勧められて仕方なく、といった程度だ。日常的に飲むのは酒か水そしてダイナーのコーヒー。そして自分で淹れるのはインスタントのコーヒーだけだ。
「よし、じゃあ……これかな」
細かな彫刻が施されたカップボードの中を物色してから、キッチンのテーブルに置かれて布巾がかけられている大きなマグカップを手に取った。
「喉が渇いてるって言ってたしな。でかい方がいいだろ。アレもコレもでかい方が喜ばれるってもんだ」
いつもの調子が出てきたヴァルラ。あとはいつものコーヒーと同じだ、とスプーンで茶葉をすくってマグカップに入れ、煮立ったお湯を鍋から注いでスプーンでかき混ぜた。
「……溶けないな」
コーヒーのように溶けてなくならない茶葉。それどころか湯を吸って大きく広がり、カップの中はふやけた葉っぱでいっぱいになった。
途方に暮れたヴァルラは、スプーンでそのふやけた茶葉をすくい取って捨てた。何度も繰り返すと、葉っぱはそれほど目立たなくなった。
「まあ、こんなもんだろ」
ヴァルラはようやく出来上がった紅茶らしき何かが入ったカップを右手に持った。左手にはキッチンに置かれていた砂糖が入ったポットと、スプーンを持って書斎へと戻った。
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