第13話 下僕の弱点(二)

「ん? どうしたのだ?」


 おかしな動きを見せるヴァルラを怪訝そうに見つめ、椅子から立ち上がると、主は震える下僕のもとに向かって歩みを進める。


「契約の内容に何か疑問や不満があるのか? それともどこか体調が悪いか?」

「──こ、こっち来ん……いや、主なんだから、そこで堂々としていてくれよ」


 額に脂汗をにじませ、青い顔になりながらも、必死で足を踏ん張るヴァルラ。この世の中に怖いものなどないヴァルラだが、ヴァンパイアだけはどうしてもダメなのだ。

 子供の頃にヴァンパイアに襲われ、すんでのところで助けられた。その時のトラウマが今でもヴァルラを苦しめている。


「……そうか。ならば早速下僕としての仕事を与えよう」

「お、おう。何でも言ってくれ」


 ヴァルラはひきつった笑みを浮かべる。足の震えはなんとかおさまっていた。


「どうにも喉が渇いてな。飲み物を……」

「飲み物!」


 ヴァルラは思わずのけ反った。足の震えが再び襲ってくる。


(ヴァンパイアの飲み物は……血か?! 下僕の俺の血か──?!)


 ひきつった笑顔でガタガタと震えていると、主はにっこりと微笑んだ。


「そうだな、お茶を頼む」


 ヴァルラは目を瞬かせた。足の震えも止まる。


「お茶を」


 主は小さくうなずく。


「うむ、お茶を」

 

 血ではなかったことにほっとして、少し気が抜けた様子のヴァルラ。

 しかし安心はしたものの、彼は固まったままだ。ヴァルラにはお茶を飲む習慣はない。もちろん淹れたこともない。


「どうかしたのか? 茶葉は何でもよいぞ。」

「お、おう。待ってろよ、ル……主」


 ヴァルラは胸を張って大きくうなずき、くるりと背を向ける。そうしてぎくしゃくと壊れたからくり人形のように歩いて立ち去っていった。

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