第18話 主の後悔

「しかしよく隠れてられたなー。警察やつらがあんなに丹念に、家捜しみたいな現場検証してたってのに」

「あの盗賊達のような者もおるからの。誰にも気付かれない部屋がいくつかあるのだ」


 首をかしげるヴァルラに答える主の声は満足そうだ。どうやら自慢の隠し部屋らしい。実際、あの盗賊団がここを根城にしていた三週間の間、彼らに見つかる事もなく隠れていられたのだ。それだけでも「隠し部屋」がいかに有用だったかがわかる。備蓄が切れた一昨日までの間、主は隠し部屋に備蓄してあったビスケットとチョコ、水だけを口にしていたという。


「私はいいのだ。食べるものなどなくとも、腹こそ空くが命にかかわる事はない。だが……」


 この屋敷で働いていた、所謂彼の下僕しもべ達が盗賊団に見つかり、皆殺されてしまった。そのことが無念極まりないという。


「あの時に戻れるなら、私は己が隠れる前に下僕たちを逃がして、若しくは隠し部屋に隠してやるのだがな……」


 目を閉じて、しみじみと主はつぶやいた。その後、しんみりとした沈黙が流れる。


「……ところで」

「ぅおーっ、腹減った!」


 主の言葉を遮って、ヴァルラは思わず吠えるような声で叫んでいた。主は目を丸くする。


「──お? あ、悪ぃ。何か言いかけたよな。なんだ?」

 

 呑気に聞き返すヴァルラを目を細めて見上げ、主はうなずいた。


「奇遇だな。私も同じようなことを言おうと思っていた」

「もうこんな時間だもんな。俺も昨日から何も食ってねぇ」


 ヴァルラは情けない声で腹をさすって項垂うなだれる。

 彼がこの屋敷に侵入したのが昨日の夜。明け方に警察を呼び、その対応には長い時間を要した。早朝に来た彼らが帰ったのは今、午後3時だ。


「うむ、今回はこのような異例の事態なのでしかたあるまいて。普段私は11時と19時に食事をとる。今後はそれもお主が作るのだ」

「11時と19時? 1日2食か。それしか食わないのか? そんなんじゃ大きくなれねぇぞ」


 そこまで言って、はたと気付く。目の前の主はヴァンパイアだ。今少年の姿をしているなら永遠に年をとることはないのだ。ヴァルラのそんな考えを知ってか知らずか、主はずっと微笑みを絶やさない。

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