第33話 秘密の部屋(五)

 探すなら夜が良い。ヴァンパイアなのにどちらかというと昼型の主は、10時に目覚めて深夜2時を回ると眠りにつく。


 そうして今日も彼はいつもと変わらず、深夜に寝室でハーブティを飲み、就寝。それを確認した後で、ヴァルラは黒い革のジャケットを羽織り屋敷の外に出た。丹念に屋敷のフォルムを観察し、何周もした後で今度は屋敷の中を見て回る。

 

 部屋と部屋、廊下と階段の位置を頭に入れながら歩く。天井の高さや壁の厚さを見ていくと、いくつか違和感を感じる箇所がある。頭の中で組み立てた屋敷の図面に,

ところどころ不自然な空間があるのに気付くのだ。


「ビンゴだぜ」


 ヴァルラは脳内にある屋敷の図面を紙に雑に書き上げ、秘密の部屋とみられる箇所に赤い印をつけた。その場所は3か所。


 1つ目は地下のキッチンと洗濯室の間。一見壁に見える引き戸を開けると、15㎡くらいの小部屋があった。ヴァルラは息を飲む。石と煉瓦に囲まれたその部屋の入り口には、頑丈な鉄格子がはめ込まれていたのだ。


「まさかここに獲物の人間を閉じ込めておいて……」


 恐ろしい想像がわき上がって来るが、ライトで照らしたその部屋の中にはもちろん誰も居なかった。しかも相当な年数使われていないようで、部屋の中全体に蜘蛛の巣がびっしりと張り巡らされている。

 そもそもこの部屋を隠していた引き戸は埃が溜まり固まっていて、開けるのにえらく時間がかかったのだった。


「ハズレか。……しかし何のために使われてたんだろうな、ここ」


 気にはなったが、こんな薄気味悪い部屋に長居は無用とばかりに、ヴァルラは再びこの地下牢の引き戸を固く閉めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る