第11章 無能な警察 その③

ODで亡くなったマリを思い出す。彼女は死んだから警察が動いた。


「心愛、ここでくじけてはダメだ。他に手があるはすだ」


 父の声が虚しく響く。


 どうか……私のような思いをする女性がこれ以上出ませんように。私はドラストを一軒一軒周りながら、風邪薬の瓶を買い溜めて行った。


 そしてコンビニで買ってきた500ミリのストロング缶で薬を一気に飲み、ベッドに横たわる。


 ふと思う。


 私の人生、悪くなかったな。よくよく考えてみたら、私の周りの人たちはいつだって私のことを思ってくれていた。


 涙が頬を伝う。


「今までありがとう。ちゃんとお礼を言えなくてごめんなさい」


 私は父にメッセージを送った。


 私はこれまでになく穏やかな気持ちだ。もう苦しまなくていい。



**


 白い天井が見える。私の両腕、両足、腰は拘束されている。前にもみた光景だ。


 3日が過ぎ、大部屋に入る。



「おかえり! って帰ってくるなといったのに!」


 聞いたことの笑い声がする。


「あ! オーロラ!」


「誰がフィンランドやねん!」


 光輝がツッコミを入れる。私は再びサナトリウム武蔵野に医療保護入院となっていた。


「なんだかんだ言って、病院は安全だよ」


 光輝の言葉に私は頷く。あのまま入院していればマリだって亡くなることはなかったかもしれない。


「マリさん、亡くなっちゃいましたね」


 私もマリに続きたかった。しんみりと光輝が言う。


「こういう世界だからなあ。未遂を繰り返していけば、いつかは既遂になる。周りは次々亡くなっていくし、慣れるしかないね」


「光輝さんは慣れたんですか?」


「まさか! 感覚は麻痺していくけど、誰か亡くなるたびに苦しくなるよ」


 大広間に2人、私たちはため息をつく。


「前聞かなかったけど、橘さんてなんか病気なの?」


 父が性被害のことを医師に話したため、私はPTSDと診断されていた。


「なるほど、トラウマを抱えているのか」


 光輝は言葉を選びながらゆっくり話した。


「心の傷は必ず癒すことができると思う」


「どうやってですか?」


「それは人によるよ。いいカウンセラーに巡り会えたという人もいれば、芸術に癒されたという人もいるだろうし……。自分は無力じゃないと感じたときに回復していくんだろうな。そこまで辿り着くのが難しいのだろうけど」


 私はカーテンを開け、外の景色を眺めた。うまく行くと思っても、またすぐ壊れてしまうんだ。


 

 強くなりたい。

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