第12章 彼との出会い その①
土曜日、父が面会に来た。
「外で話そうか?」
私たちは庭に出る。父はおもむろにタブレットを取り出すと動画サイトに繋げる。
「心愛の好きなLady Gaga。Born This Wayだよ」
私は改めて聞く。
「これ、どう考えても裸の人達ばかり出てくるのに、なぜ禁止じゃなかったの?」
父が画面を指差す。
「この場面、なんだと思う?」
「さあ……巨大な花だと思ってたけど」
「これは女性器のメタファーだと思う」
突拍子もない話に私は戸惑う。
「生命の誕生を讃えていると思うんだよね。だから父さんは『この曲は美しい』と言ったんだ」
父がそんなことを考えていたとは……。私はMVに釘付けになる。MVが再生し終わりCMになると、父はパソコンを閉じた。
「人生はつらい。でも生命は美しいと思う。ただ生きてるだけでいいんだよ」
「死んじゃダメなの?」
「ダメとは言わないよ。そんなこと言ったら今まで自死していった人々を否定することになるから」
そう、父も昔、義妹を亡くしたんだ。
「少し静養したら……気分転換に温泉でも行くか」
だがその後コロナという感染症が世界を蹂躙し、都道府県をまたぐ移動は禁止されてしまう。
**
退院後、山田さんにメッセージアプリから連絡すると、ハイテンションな返事がきた。
〈信じられないんだけど、娘から手紙がきたんだ。会いたいって〉
〈よかったですね!〉
〈妻と娘が去って行ったとき、2度と会えないと思ったのに。やっぱり……生きていればいいことがあるんだなあ〉
スマホの向こう側で喜ぶ山田さんを想像する。そして私は邪魔しないよう、連絡を控えることにした。
いつの間にかすっかり痩せた私は、昔は着れなかったXSの服も着れるようになっていた。
**
私は以前使っていたのとは違うマッチングアプリに登録する。写真はバリバリに加工した地雷メイク。プロフィールには一言「ご主人様募集」。
予想はしていたが、体目的のおじさんたちからメッセージが届く。
〈今日会える?〉
〈一回いくら?〉
中には暗号のような文章を送ってくる者もいる。買春の値段、ホテル代の有無、避妊の有無をひとことでまとめるのだ。だが私が求めているのは身体でも金でもない。
オススメに出てくる写真を次々スライドしていく。そんな中りくさんを見つけた。ウェーブがかった茶髪。プロフィールを見ると細身の175センチ。私より2歳下か。
〈りくと申します。オトナの友達を増やしたくて登録しました。性格は犬っぽいと言われます笑〉
無加工のプロフィール写真は、ありのままの自分を受け入れてほしいと訴えているように見えた。
強気の文とは裏腹に影がある。何かに怯えているようにも見える。私はすぐメッセージを出す。
〈はじめまして。本能的に魅かれました。よろしくお願いします〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます