第12章 彼との出会い その②
おそらく彼は、私のプロフィールとメッセージに戸惑っているだろう。だが興味を持つはずだ。
〈いいねとメッセージ、嬉しいです。本能的に魅かれちゃったんですか笑笑〉
りくさんから返事がくる。
〈はい。ご主人様になってもらえますか?〉
〈メイドさんですか?〉
〈いえ……ドS紳士を探しています。前のパートナーからフラれてしまったんです〉
パートナーがいたことはないけれど、なめられたくなかったから少し誇張する。
〈すみません。無料メッセージの上限になってしまいました〉
りくさんはひいたみたいだ。だが私は他の男性に感じるような”違和感〟をりくさんには感じない。直感で「この人なら」と思った。
私はメッセージアプリのIDを送る。
翌日りくさんから返事がきて、私たちはやりとりを始める。
「心愛さんて何て読むんですか?」
「ここあです。ここあと呼んで下さい」
私は高卒のフリーターと自己紹介し、りくさんはCDショップで働いていると教えてくれた。
最近では午前中客が少ない時間に、りくさんな好きな音楽をBGMとして流しているそうだ。
彼はどこか、人生を諦めているようにも見えたが、マチアプを利用しているということは、人の肌のぬくもりを求めているのだろう。
がっついてこないのは、相手から求められたがっているとも感じる。でもすぐに会おうとはしない。焦らしているのか、疑ってるのか、不安なのか。
若くてイケメンで、仕事もそこそここなしている。強気でありながら自信のなさが見え隠れする。おそらく人生のどこかで深い挫折を味わったのだろう。
**
それから私たちは何度もメッセージを交わし、お互いの気持ちを高めていく。そして緊急事態宣言が解除されるのを待ち、ようやく会うことになる。会う前日にりくさんは、実家で飼っているという猫のココアの写真を送ってくれた。
待ち合わせ場所は渋谷ヒカリエだ。
私はコルセットから細いチェーンがいくつも連なっているワンピースを選ぶ。そのスカート部分には安全ピンやフェイクジッパーがついている。
そして傷跡を隠すため、レースのアームカバーにリストバンドを重ねた。腰まで伸びた黒髪は昨夜、トリートメントパックしてある。
思い返せば、最初投げやりだった彼のメッセージは変わっていった。1日後なんてざらにあった返事も、今は30分かからずに返ってくる。
私は「この人は私を傷つけない」と思うようになっていった。彼は何かに傷ついており、誰かを求めているに感じる。私はその〝誰か〟になりたい。
私たちはカフェでフラッペを飲みながら、早速このあとの予定を話す。
「私はこのままホテルに行きたいです」
りくさんからは動揺と少しの嫌悪感を感じた。そういう反応をするのは、今日私に会いに来たのが身体目的ではないからだ。
それでもりくさんは私をスタイリッシュなホテルに連れて行く。私は和モダンな部屋のパネルを押す。彼はフロントでキーを受け取ると、エレベーターに乗った。
さて、どうくるかな。
りくさんは私のワンピースのファスナーを乱暴におろすと、そのままベッドに押し倒す。
「急に何をするんですか!」
はだけそうになった胸を押さえながらりくさんを睨む。とはいえこれも予想の範囲内だ。
「こういうのが好きなんでしょ?」
「違います! やめてください!」
りくさんを押しのける。
「待ってよ、俺はちゃんとAV見てきたんだよ」
やっぱり。昔の私と同じようにSMに偏見を持っている。
「イメージだけで作られた一般人向けのAVなんて信用しないでくださいよ」
「一般人ねえ」
りくさんはため息をつく。
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