第12章 彼との出会い その③

 私は性的同意の大切さを語る。


「今日会うことは2人で決めました。どこで会うかも2人で決めましたよね?」


「待って待って。ラブホに来た時点で何をするかわかるだろ?」


 りくさんが苦笑いをする。


「カフェに入ったとき、人が飲むものを勝手に決めますか? 相手が嫌がっても無理やり飲ませますか?」


 私の話にりくさんは不満そうだ。


「言いたいことはわかるよ。でもムードっていうものがあるだろ? それにこういうのは男がリードすべきだろ?」


「結構です!」


 私は山田さんから教わったあのフレーズを使う。


 「SはSlave(奴隷)、MはMaster(主人)ですから。自分本位な人は、Sにはなれませんよ」


 これでりくさんは私のいいたいことを理解したはずだ。そう、主導権は私にある。


 そして私はりくさんに背中を向ける。


「ファスナーあげてくれませんか?」


 りくさんは不満げに私のワンピースのファスナーをあげ、それ以上強引なことはしなかった。


「また会ってくれますよね?」


 困惑したままのりくさんにおやすみなさいというと、私は改札に入った。



**


 

 私と会うようになってから、りくさんは掛け持ちしていたバイトを一本にし、2人で会う時間を増やした。信頼関係が大事と、私はことある度に伝える。

 

 りくさんはすぐに縄の縛り方をマスターし、私は彼に癒されていく。りくさんに包まれると安心する。


 私は「生きている」と実感するようになっていく。



 世間は3回目の緊急事態宣言を迎えていたが、私たちは気にせず、堂々と恋人繋ぎをしながら歩く。ブロードウェイ地下でソフトクリームを食べながら、他愛もない会話を交わす。


「また太っちゃったんですよ」


「まさか! 痩せすぎだよ!」


 高校のときにMサイズだった私は、弱っていく中でXSになっていたが、最近はSになっていた。



 私にはもうひとつ、企みがある。りくさんをSMバーに連れて行き、2人でより高みを目指したい。


 メッセージアプリを使い、お店の外観と室内のスクリーンショットをりくさんに送る。六本木で有名なSMバーだ。シックな店内に入りやすいと感じてくれるはず。


 躊躇っているようだったりくさんに、私は普段よりスタンプ多めのメッセージを送り、甘えた。そしてその晩私たちはバーに向かう。


「お客様。失礼ですが、身分証を拝見させていただけますか?」


 店員に促され、私は運転免許証を出す。


「心愛……! 俺より2つ年上じゃないか」

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