第8章 オーバードーズ その②

 ルカさんは普段料理をせず、デリバリーサービスを利用しているという。冷蔵庫には水、エナジードリンク、豆乳や醤油くらいしか入っていない。


 健康のために毎日豆乳を飲んでるというルカさんをかわいく感じた。


「具合悪くなってから薬飲むより、健康にいいものを毎日摂るのが大事なんだよ」


 彼の意外な側面を知り、私はまた嬉しくなった。


 〈安息所〉の人たちは誰も知らない私たちだけの秘密……。



 夜、私は〈安息所〉に入る。


〈こんばんは、元気になりました!〉


 同時にマリにもメッセージを送る。


〈まだ入院中?〉


 マリからすぐに返事が来る。


〈心愛さんが退院した後、私も退院になったよ。ただね、彼氏ともめててチャットに入れなかったんだ〉


 私は再びマリにメッセージを送る。


〈彼氏さんとの揉め事? チャットが関係してるの?〉


〈うん。チャットに来るなと言われたよ〉


 マリの彼氏ってもしかしてタツヤなのだろうか。どう聞くか迷ってるとマリから立て続けにメッセージが続く。


〈あいつ、二股かけてる〉

〈でも本命は私だから〉

〈相手の女もにぶい〉

〈抱かれてもないくせに彼女づらすんな〉


 普段の明るいマリとは異なる様子にどう返事をしていいかわからない。私が返事を返せずにいると、マリが突然〈安息所〉にコメントを書いた。


〈こんばんは! 私は元気じゃなくなりました!〉


〈久しぶりだね、ご機嫌斜めかな?〉


 タツヤが反応する。周りも様子を伺っているようだ。


 マリはチャットに〈浮気された〉と書く。そして私には〈頭わる〉と……。


 タツヤが書き込む。


〈マリ、ODした? 水飲んで休んだ方がいいよ〉


 様子がおかしかった理由を知った私はマリの身を案じる。


〈うーん! 薬いっぱい飲んじゃった〉

〈家にいるの? 家族と一緒?〉

〈どこでしょう? さっきまで彼氏と一緒だったけど?〉


 私には通話ボタンを押す勇気がなく、ひたすらチャットを眺める。タツヤのほうはマリに通話を試みたようだが、マリは出なかったみたいだ。


〈誰か救急車か警察呼んだ方がいいんじゃない?〉

〈マリの家どこ?〉


 〈安息所〉を不安が支配する。私たちは生きるためにここにいる。お互いをお互いが支え合っているのだ、誰かを失うわけにはいかない。


 怖くなった私は処方された薬を飲むとベッドに潜り込んだ。

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