第8章 オーバードーズ その①
「男なんだろう? 何の仕事をしているんだ? どこで知り合った? まさかネットじゃないよな?」
父が矢継ぎ早に聞いてくる。
「19歳の女の子に、20万もするネックレスをプレゼントするやつがまともだと思うか?」
「なんで値段知っているの?」
「鑑定に出したからだよ」
「キモいよ!」
私は全力で叫んだ。そんな風にコソコソ調べていたなんて。そして私を精神科送りにする計画を、コソコソ立てていたことも思い出す。
「いつもそう! まさかまた私のためというんじゃないでしょうね?」
「またって……? 心愛のためだよ。心愛のために決まってるじゃないか」
「女子校に入れたのも私のため?」
私は語気を強める。
「なんで急に学校の話になるんだ?」
「私を女子校に入れたのだって、お父さんのエゴだよ!」
私は怒りをコントロールできなくなっていく。
「女子校にいれば安全だと思った? 全然安全じゃなかったよ!」
父は明らかに動揺している。
「まさか……父さんに反発して男を作ったのか?」
「そんなこと、誰もいってないじゃない……」
私の怒りはすぐに、虚しさに変わった。やはり父は何も理解していない。私の居場所はここにはないんだ。
私はスマホと財布を、レモン色のミニバッグに入れ、処方された薬の袋をつかむと、家を出た。
「父さんはどうしたらよかったんだよ……」
やっぱり父は、自分のことしか考えていないんだ。
女子校に私を入れたのは私のため? それで結局どうなった? 心配だから強制入院? それは父自身が不安に負けたからだ。私のためなんかじゃない。
私は足早にマンションの階段を降りると、ルカさんに連絡した。
〈家を出たんです。会ってくれませんか?〉
ルカさんはすぐに通話してきた。
「お父さんは過保護だよな。ただ……俺も気持ちはわかるよ」
「ルカさんは、私を精神病院にぶち込んだりしないでしょう?」
「あれはやり方がひどいね。わざわざ業者を雇ったんだろう?」
ルカさんと話しながら私は、やはり父は異常なのだと思うようになる。
「うちにくる? 夜遅くまで仕事だから、部屋で適当に時間潰しててくれるかな?」
それまでルカさんの家に行ったことはない。会うときはいつも外だった。私を部屋にあげないのは、何か深い事情でもあるのかと思っていたが、考え過ぎだったようだ。
彼の部屋は繁華街近くのマンションの一室にある。私たちはコンビニに寄り、化粧水や乳液の入ったお泊りセット、下着やサンドイッチなどの軽食を買う。
ルカさんの部屋に入ると、中が綺麗すぎて生活感がないのが気になった。
「性格的に、散らばってるのは苦手なんだよね」
散らかさないよう気をつけないと緊張する私に、ルカさんが優しくいう。
「ベッド使っていいからね。俺はソファで寝る。タオルは洗面所。部屋着は好きなの着ていいよ」
私はここにいていいんだ。
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